「大学で遊んだだけの人」が会社で行き詰まる訳 池上彰×佐藤優「今の大学生が学ぶべきこと」

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佐藤:地方公務員上級職になると、丁寧な研修が施されます。その後、5年間勤務したら、国連本体やユネスコ(国連教育科学文化機関)、ユニセフ(国連児童基金)といった国際機関に応募する道が開けるのです。

国際経済とか国際人道法とかに関わる修士号を持っていて、地方自治体に5年間勤務したという実績があれば、受かりやすくなります。この場合、地方公務員という実務実績が重要で、大学院を出ただけでは国際機関はなかなか採用してくれません。

そうやって国際公務員になって活動して、そこで実績を作れば、今度は外資系の企業に行くとか、そういうことも可能になる。そんなキャリアパスが描けるように、とにかく出口で公務員だけは最低保証しておくというやり方を、今実行しているのです。

池上:そんなに戦略的な教え方をしている大学の先生が、どれだけいるでしょうか。でも、そうやって出口を保証しているからこそ、学生たちは厳しい勉強についてくるのかもしれません。

佐藤:大学レベルの教養を身に付けろといっても、何が大学レベルなのかは、実際にはわからないでしょう。

地方公務員の上級試験の教養というのは、ちょうど大学卒として必要な教養のレベルだということに、ようやく2年前くらいに気がついたのです。いくら学生が「教養がついた」と自称していても、それでは世間は認めてはくれません。そこをちゃんと説明できる「資格」として、地方公務員上級試験合格というのは、うってつけでした。今は、そういう座学をアクティブ・ラーニング的な学びと同時並行で進めているわけです。

池上:そこから巣立った学生たちがどんな活躍をするのか、楽しみですね。

大学院まで6年間行くことの重要性

佐藤:あえて付け加えておくと、ずっと教えてきてわかったのが大学院の重要性です。

大学に入って、学部の1回生のときから一生懸命勉強したとしても、3回生の秋になると就活でそわそわしてきて、翌年の2月くらいから少しずつ、先輩訪問とかインターンとかを始めて、内定の出るのが4回生の5月か6月でしょう。その後は、何をするでもなく時間が過ぎていく。つまり、4年制大学に入っても、実質2年半しか勉強する期間がないことになるのです。

でも、その環境は大学院進学を視野に入れると、一変します。院の場合、就活は2年目の年明けになってから。3月くらいから本格的に企業を訪問して、内定が出るのが5月か6月ですから、就活で失うのは4カ月くらい。就活が終わったら、そこから修論を書きますから、また勉強です。だから、大学での勉強時間は、修士課程に行くと、学部の丸々4年プラス1年8カ月の5年8カ月、行かなければ2年6カ月という計算になるんですよ。

池上:修士課程に進めばプラス2年ではなく、それ以上の差になる。そこも盲点です。

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佐藤:これからの時代に社会から求められる人材になりたいと思ったら、大学院に進んでみっちり学ぶことを勧めたいのです。複数形のない教科書で語学の授業をするようなところでは、意味はありませんが。

個人的には、例えば今の大学の学部と大学院までで、実質の学習時間はこんなに違うという話を、いろんな大学の学長にぶつけてみたいですよね。そういうことを考えていって、大学院まで6年間行くということになると、おそらく4年と2年で分けるよりは、3年と3年にしたほうがいいのではないか、といった視点も出てくるように思うのです。大学院に進む人間は、3年目に卒論を出させてしまったらいい、と。

池上:東工大は、理学部、工学部という区分けを改組して、最初から6年間学ぶことを前提にした組織に作り替えました。早稲田の理工もそうしました。ほぼ全員が、院に行きますから。

佐藤:文系の学部でも、そういう取り組みがあっていいのではないかと思うのです。

池上 彰 ジャーナリスト

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いけがみ あきら / Akira Ikegami

1950年、長野県生まれ。1973年慶應義塾大学卒業後NHK入局。ロッキード事件、日航ジャンボ機墜落事故など取材経験を重ね、後にキャスターも担当。1994~2005年「週刊こどもニュース」でお父さん役を務めた。2005年より、フリージャーナリストとして多方面で活躍中。東京工業大学リベラルアーツセンター教授を経て、現在、東京工業大学特命教授。名城大学教授。2013年、第5回伊丹十三賞受賞。2016年、第64回菊池寛賞受賞(テレビ東京選挙特番チームと共同受賞)。著書に『伝える力』 (PHPビジネス新書)、『おとなの教養』(NHK出版新書)、『そうだったのか!現代史』(集英社文庫)、『世界を動かす巨人たち〈政治家編〉』(集英社新書)など。

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佐藤 優 作家・元外務省主任分析官

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さとう まさる / Masaru Sato

1960年、東京都生まれ。同志社大学大学院神学研究科修了。

2005年に発表した『国家の罠 外務省のラスプーチンと呼ばれて』(新潮社)で第59回毎日出版文化賞特別賞受賞。2006年に『自壊する帝国』(新潮社)で第5回新潮ドキュメント賞、第38回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。『読書の技法』(東洋経済新報社)、『獄中記』(岩波現代文庫)、『人に強くなる極意』(青春新書インテリジェンス)、『いま生きる「資本論」』(新潮社)、『宗教改革の物語』(角川書店)など多数の著書がある。

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