矛盾を抱える米中貿易交渉も初夏には妥結する 選挙モードで成果を急ぐトランプ大統領

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ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は長年に渡り、中国の国家資本主義を問題視してきた。2010年に、当時、法律事務所の通商法弁護士であったライトハイザー氏は、アメリカ議会の諮問委員会である米中経済安全保障調査委員会(USCC)の公聴会で通商法301条などアメリカによる一方的な追加関税発動を既に示唆していた。

2017年3月、自らの指名承認公聴会でライトハイザーUSTR代表候補(当時)は議会に対し、「世界貿易機関(WTO)は、中国のような国と産業政策に有効に機能するように設立されていない」と語った。WTO紛争解決制度は分野が特定されてしまっているため、中国のような幅広い分野において国家資本主義を導入している国に対しては「われわれの保持するツール(法律)を利用せねばならない」と同氏は語り、通商法301条など米国による一方的な追加関税発動を再び主張した。

USMCA(新NAFTA)署名後の2018年12月以降、米中貿易交渉を率いてきたライトハイザー氏は、知的財産権侵害、強制技術移転などに表れている中国の国家資本主義を改革し、中国政府や同国企業に市場経済に基づく活動をさせることを狙っている。国家資本主義問題については、交渉を通じ何かしらの対策に合意する見通しだ。

だが、トランプ政権の対中交渉には矛盾がある。トランプ大統領の政治的思惑によって、中国政府の貿易への関与を拡大する管理貿易のための交渉が行われているのだから、ライトハイザーUSTR代表が目指す中国の国家資本主義の改正には逆行する。

中国が1兆ドルを超える規模の「輸入自主拡大」

米中貿易交渉では現在、2つのユニークな管理貿易案が明らかとなりつつある。1つはトランプ政権がこだわる貿易赤字縮小のため、中国が輸入自主拡大(VIE、Voluntary Import Expansion)となる「買い物リスト」に合意することだ。米中両国が合意する数値を達成するため、中国政府の指示によって主に国有企業が対米輸入を拡大することとなる見通しだ。2つ目が中国の報復関税を農畜産品から工業製品など他の品目にシフトさせようとする案だ。

米中貿易交渉を通じ、アメリカの産業界は中国の国家資本主義問題を解決することを本来は望んでいる。だが、中国共産党が体制を維持するにはメスを入れられない部分もあり、アメリカの産業界が満足するほどの構造改革は期待できない。一方、中国の構造改革が十分に見込めないのであれば、米中貿易交渉を通じて少なくとも短期的なビジネス拡大のチャンスを掴もうということで、アメリカの各企業は活発に動いている。各社は中国が輸入を増やす「買い物リスト」の中に自社商品が確実に含まれるよう、同交渉を所管する商務省高官を訪問するなどロビー活動を展開している。

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