矛盾を抱える米中貿易交渉も初夏には妥結する 選挙モードで成果を急ぐトランプ大統領
米中貿易交渉について、トランプ政権内ではさまざまな思惑が混在する。ウィルバー・ロス商務長官は大統領が望む貿易赤字削減に重点を置いていると言われ、1兆ドルを超えるVIEにこだわっている。一方、ムニューシン財務長官は歴代の財務長官と同様に経済界や市場のことを最優先に考え、米中貿易戦争の早期終結を望んでいる。
一方、対中強硬派のピーター・ナバロ大統領補佐官(通商担当)は米中貿易交渉が暗礁に乗り上げ、米中経済のサプライチェーンが切り離される「デカップリング」を望んでいると言われている。だが、交渉を率いるライトハイザーUSTR代表、そしてさらに重要なのはトランプ大統領の意向が米中貿易交渉の行方を左右する。
交渉妥結時期が何度も延期されたことからは、これまでは早期妥結を望むムニューシン財務長官を抑え、ライトハイザーUSTR代表が中国の構造改革問題解決の交渉を進めていた、つまり、トランプ大統領はライトハイザー氏を信頼して米中交渉を任せてきたと考えられる。
だが、あくまでも通商交渉で最終的な判断を下すのはトランプ大統領だ。2000年にビジネスマンであったトランプ氏は著書『我々にふさわしいアメリカ』で、「自らが大統領に当選した場合、自らをUSTR代表に指名する」と述べている。歴代政権ではUSTR代表に一任されていたが、現政権下では大統領によるトップダウンで通商政策が実行されている。
有権者に早く成果をアピールしたいトランプ大統領
4月上旬に中国の劉鶴副首相が訪米した際、トランプ大統領は習近平国家主席との首脳会談を4月末に設定しようとするも、ライトハイザーUSTR代表に止められ延期したとアメリカのメディアは報道している。だが、ライトハイザー氏と異なり、トランプ大統領は中国の国家資本主義の構造的な改革といった問題にさほどこだわっていない模様だ。大統領にとっては貿易赤字削減や米中間のディール成立などの具体的な成果を、支持基盤をはじめとする有権者にアピールすることのほうが重要と思われる。
トランプ大統領は4月4日、米中貿易交渉のディール成立が可能かどうかは4週間以内に判明すると言及した。計算すると、期限を5月2日に迎えることとなる。口頭で語ったものなので、厳格な締め切りではないが、2020年大統領選に向けたキャンペーンのために、大統領がライトハイザー氏に対して、米中貿易交渉を早期に決着するよう、圧力をかけていくことは必至だ。ライトハイザー氏は構造改革や施行面で可能な限りの譲歩を中国側から引き出すことを目指すものの、いずれある時点で合意せざるをえない。
報道によると両国は早ければ戦没者追悼記念日(メモリアルデー)の5月27日あたりに米中首脳による署名式を実施することを狙っているという。6月28~29日、日本が議長国のG20が大阪で開催されるので、米中首脳が出席し、サイドミーティングで最終合意がなされる可能性もある。だが、仮にG20にも間に合わない場合、先行き不透明感から株価が反応することも考えられ、株価に極めて敏感なトランプ大統領は早期妥結圧力をますます強めるだろう。
ライトハイザーUSTR代表の実兄ジェームズ・ライトハイザー元メリーランド州議会議員・同州運輸長官はウォールストリートジャーナル紙(2018年4月7日付)に「ライトハイザー代表は王様が1人しかおらず、それは自分ではないことを理解している」と語っている。米中貿易交渉は初夏にヤマ場を迎え、交渉妥結に至ることになろう。
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら