なぜ人は「スジの悪い戦略」に振り回されるのか 上司の思いつきが失敗するのにはワケがある
このように悪い戦略は、問題を分析せず、思考をサボり、選択を怠った結果、生まれてくる。件の「思いつき社長」もまさにこのパターン。問題の分析・思考・選択を怠り、思いつきで戦略を考えているのである。だから成果が出ることがない。
著者のルメルトは、DEC社の戦略会議に参加した経験を紹介している。かつてミニコンピューター最大手だったDECは急速にシェアを失い、幹部が対応策を話し合っていた。
A氏「今後も使い勝手のよい製品に集中すべきだ」
B氏「それはすぐコモディティー化する。顧客の課題にソリューションを提供すべきだ」
C氏「なんといっても半導体技術がカギだ。半導体チップに本腰を入れるべきだ」
3人ともバラバラ。譲らない。いら立ったCEOは「何とか意見をまとめろ」。
戦略会議でまとまったのは、「DECは高品質の製品およびサービスを提供するために努力し、データ処理で業界トップを目指す」だったという。毒にも薬にもならない折衷案で、戦略とは言えない。低迷が続きCEOは更迭された。
良い戦略には「核」がある
ネルソン提督のような「良い戦略」は、結果だけを見ると誰でも作れそうだ。しかし戦略でいちばん難しいのが「選択」なのだ。マイケル・ポーターは著書『競争戦略論Ⅰ』で「戦略でまず考えるべきは、何をやらないかだ」といっている。決断・選択をしないと、悪い戦略になる。「良い戦略」は十分な根拠に基づいた「核」を一貫した行動につなげている。この「核」は「診断」「基本方針」「行動」の3要素でできている。
ルメルトはCEOとしてIBMを変革したルイス・ガースナーの戦略を紹介している。詳細はガースナーの著書『巨象も踊る』に詳しいが、ここではポイントだけを見ていこう。
最初に医者の診察と同じく、状況を把握し、どの課題に取り組むか見極めることだ。
当時のコンピューター業界は、パソコン、チップ、ソフトウェア、OSなどに特化する企業に細分化が進んでいた。世の中では「IBMは図体が大きすぎる。解体して身軽になるべきだ」というのが圧倒的多数派の意見だった。しかしガースナーはこう考えた。
「細分化が進む業界で全分野に通じているのは、顧客にとっていいこと。問題は総合的なスキルを活かしていない点だ。統合化を進め、顧客向けソリューションを提供する」
課題を見極めた後は、大きな基本方針を示すことだ。ガースナーは「顧客向けにオーダーメイドのソリューションを提供する」という方針を明確に示した。
基本方針を実行するために、一貫性をもって具体的に行動する。ガースナーは、サービス事業とソフトウェア事業を強化し、それまでのIBMのタブーを破り、顧客が必要とするのならば他社製品も取り扱うようにした。
このように戦略で必要なことは、問題を真正面から見据え、分析し、「やること」と「やらないこと」を選択し、明確な方針にしたうえで、具体的な行動につなげることだ。
ときどき「戦略はよかった。実行がダメだった」と言う人がいる。しかしそれはそもそも良い戦略ではない。良い戦略には、明確な行動の指針も含まれる。
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