なぜ人は「スジの悪い戦略」に振り回されるのか 上司の思いつきが失敗するのにはワケがある
ネルソンはこう考えた。まず、数で上回る敵を分断させたい。敵砲手の練度は低く、当日は海が荒れていた。ネルソンは「敵艦隊は、突入するイギリス艦隊を正確に撃てない」と読んだうえで、艦隊を突っ込ませるリスクを選んだ。敵が混乱し統率を失えば勝てる、というわけだ。そして狙いどおりになった。
「悪い戦略」の4つの特徴
このように「良い戦略」はシンプルだ。状況から決定的要素を見極め、狙いを絞り兵力投入する。しかし世の中では「悪い戦略」が圧倒的に多い。悪い戦略の特徴は4つある。
■特徴1:中身がない
ある大手銀行の基本戦略は「顧客中心の仲介サービスを提供すること」だという。しかしこれは銀行の業務そのもの。わかりきったことを難しい言葉を多用し、深く語っているように見せかけて、中身がない。必要なのは「中身」だ。
■特徴2:重大な問題を無視している
ルメルトは、低迷するある会社がコンサルタントを雇って作成したという分厚い「統合戦略」を見せてもらった。プランによれば、来年から急成長することになっている。
社内の各事業部が考えた「ビジョン」「戦略」「目標」をテンプレートに記入させ、コンサルタントが資料にまとめたという。資料は詳細で一見完璧だが、低迷の原因が何でいかに解決するかはどこにも書かれていない。
実はこの会社が低迷している真の原因は、余剰人員を抱え込んだ非効率な組織だった。
この問題を無視して分析もしないまま戦略を作っても、うまくいくわけがない。
■特徴3:目標と戦略を取り違えている
ルメルトは、ある社長からこんな依頼を受けたという。「当社の戦略目標は売り上げ2桁成長だ。課題は実現に向け全員の士気を高めることだ。しかし社員には『絶対に勝つ』という強い意志がない。そこでコーチングしてやってほしい」。
この社長の戦略は、戦略ではない。希望的観測を語っているだけだ。「いかに目標を達成するのか」を部下に丸投げしていることに気づいていない。戦略目標は「真正面から艦隊を突っ込ませ、敵を分断させて勝つ」というように、具体的で明確なものだ。
■特徴4:単なる寄せ集め
ルメルトはアメリカのある市長から、市の委員会が作った戦略を見せてもらったという。
戦略は47個、アクションプランは178個あった。122番目には「戦略プランを作成する」というものもあり、苦笑いしたそうだ。単なる寄せ集めは戦略ではない。
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