32歳引きこもりの息子に母が惜しみなく注ぐ愛 不登校、強迫性障害、「親ゼミ」を経て…

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――いま息子さんはどうしていますか?

32歳で仕事はせずに、家族と暮らしています。一度アニメ制作の学校に通おうとしたこともありましたが、初日に先生にひどくどなられたらしく、通えませんでした。

20歳くらいのときにかかった病院の先生のおかげで、初めて発達障害があるとわかりました。本人は、自分がいつも学校の先生に怒られていたのは、そういう原因もあったのかと納得したみたいです。

「いままでずいぶんつらかったでしょう」と先生が長男に言ってくださって、すごく慰められたと話していました。以来、その先生のところにはずっと通っています。

「働かなくちゃいけない」という意識があったようで、それを考えると不安がつのって、あるとき息子が先生に相談しました。

すると先生が、「障害年金を受給できるから手続きしよう」と提案してくれて、いま息子は障害年金で暮らしています。

私も息子も長生きしよう

――この先どういうふうにすごしていきたいと思っていますか?

この前、息子と話していて「お母さんはイヤだろうけど、僕はお母さんが死ぬ前に死にたい」と言われました。「ごはんもつくれないし、掃除も苦手だし」って。だから、こう返しました。

「じゃあお母さん、一生懸命長生きするからね。80歳でも90歳でも生き続けるから」。そうすれば、息子も長生きしてくれますからね。

これまで不登校とか強迫性障害とかいろいろあったとき、本人はすごくつらそうで、「こんなにつらいんだったら、私がどんなにがんばっても死んじゃう場合があるかもしれない」と思ったんです。

そしたら、息子が生きていること自体が、すごく愛おしく感じられてきて……。なんというか、生まれたばかりの息子を抱いたときの感覚がよみがえってきたんです。

生まれたばかりのわが子に対して、学校に行ってほしいとか、就職してほしいとか、思わないじゃないですか。それ以前に、ただ丸ごと抱きしめたい、という気持ちがあると思うんです。

私は息子が大きくなってから、もう一度その気持ちを持つことができました。息子に万が一のことあったときに、後悔はしたくない。

自分が求められることがあれば、出し惜しみしないで息子に与えたい。だから私も、長生きしたいと思っています。

――ありがとうございました。

(聞き手・茂手木涼岳/編集・吉田真緒)

※「親ゼミ」とは
毎月第2木曜日、フリースクール「東京シューレ王子」内で開催されている親の会。不登校や自分の生き方などを深く考察することが特徴。
会費:1回1030円(原則4回参加)

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日本で唯一の不登校専門紙です。不登校新聞の特徴は、不登校・ひきこもり本人の声が充実していることです。これまで1000人以上の、不登校・ひきこもりの当事者・経験者が登場しました。

また、不登校、いじめ、ひきこもりに関するニュース、学校外の居場所情報、相談先となる親の会情報、識者・文化人のインタビューなども掲載されています。紙面はすべて「親はどう支えればいいの?」という疑問点から出発していると言えます。

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