「本当に運がよくって、営業をしなくても仕事はうまくいくし、会いたいと思ってる人にはだいたい会えるんです。
そういえば、30歳を過ぎた頃、父親にも会うことができました」
アプスーさんが母親のお腹にいる頃に、スペインに渡った父親だったが、大阪に帰ってきてピザ屋をやっているという噂を聞いた。
「そのピザ屋さんに行ったんですよ。ドアを開けたとたん
『おお!! 久しぶり!!』
って言われたんです」
久しぶりと言っても、実際会うのは初めてだった。アプスーさんが、
「誰だかわかる?」
と聞くと、父親は、
「俺の子どもだろ」
と答えた。
俺の子どもって、まだお腹にいるときに出ていったくせに……とアプスーさんが訴えると、
「ごめんごめん、ピザおごるから許して」
と軽く言われた。
「めっちゃ面白いなと思いました。面白かったんで許しました。
父親と、話していると、腹違いの弟がいることがわかりました。弟は東京でモデルとかしていました。
弟とは仲良くなって、そこからの縁で今回のグループ展に参加することになりました」
アプスーさんの仕事のつながりや、広げ方はとても珍しく独創的だ。まねしようと思ってもできないと思う。まるでアプスーさんの描く文様のように、つながって広がっていく。
アプスーさんの作品は“鍵”みたいだ
グループ展にうかがい、インタビューしている僕自身、アプスーさんの人生の文様に描かれていくような奇妙な気持ちになった。
「僕の文様って一つひとつに意味があって、その意味を重ねることで物語になっているんです。中にはそれを読み取ってくれるお客さんがいます。じっと見て何かを感じてくれている。
あるお客さんにアプスーの作品は“鍵”みたいだって言われました。
僕の文様を読み解いているうちに視野が広がっていき、いつの間にか世の中になにげなくあるものに対して、意味があるんじゃないかと思わせてくれる、そんな鍵なんだって。僕の作品を見た後に街に出ると、なにげなく建っているあのビルにも意味が? あの看板のマークにも意味が? そんなふうに思うそうなんです。
その意見がすごく気に入って、自己紹介のときに引用していますね」
アプスーさんはとても不思議な人だった。彼が営む文様作家という仕事もやはり不思議だ。そんな不思議な仕事が、今の日本で成り立っていること自体がとても不思議だし、とてもすてきだな、と思った。
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