次に、昭和を代表する朝ドラと言えば、現在NHK BSプレミアムで再放送中の「おしん」(1983年~1984年)をおいて他には無い。平均視聴率は52.6%で最高視聴率62.9%。「おしん」には「貧しい少女の辛抱もの」というイメージが強いのだが、脚本の橋田壽賀子氏によれば「主人公(註:田倉しん)が反戦の姿勢を貫く」ドラマだとしている(『92歳、橋田壽賀子が説く「執着しない」老後の生き方』:現代ビジネスより)。
「おしん」が放映された1983年は、アメリカの新聞に対して中曽根康弘首相(当時)が「日本列島を不沈空母のように強力に防衛する」と発言したきな臭い年でもあった。そう考えると「おしん」も、(単なる「辛抱もの」ではなく)時代としっかりとリンケージした側面があったことがわかる。
他の朝ドラの話が長くなったが、言いたいことは、「朝ドラらしさ」と書けば、保守的なあれこれを連想してしまうが、傑作と言われた朝ドラには「時代性」(現代性)が、ちゃんとインストールされていたということである。
その「時代性」を古めかしく言い換えれば「保守」に対する「革新」。その「連立」が傑作朝ドラへの道なのである。そして先の、泰樹からなつへのセリフを読めば、「なつぞら」の今後の展開も、そんな「保守と革新の連立」が十分に意識されているのではないかと予感し、ワクワクするのだ。
保守と革新に「笑い」という三権分立
最後に1点だけ、「なつぞら」に注文がある。もう少しコミカルな要素があってもいいのではないか。
私は、『なつぞら』の脚本家=大森寿美男氏による前作朝ドラ「てるてる家族」(2003年)を、かなり楽しく見た者である。ミュージカル風の脚本や、主人公・冬子(石原さとみ)と、その姉・秋子(上野樹里)のはつらつとした演技に、大いに笑わせてもらった。
幸い、「なつぞら」では、東京新宿に舞台を移す物語の中盤からは、戸田恵子と山口智子という屈指のコメディエンヌが登場する(ドラマ「ダブル・キッチン」など、1990年代の山口には、明らかにコメディエンヌの才があった)。
「保守」と「革新」に、「笑い」という「三権分立」が完成すれば、その朝ドラには、もう怖いものなどない。「朝ドラらしい朝ドラを超えた朝ドラ」になるだろう。
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