朝ドラ「なつぞら」が最高のスタートだった理由 成功へのカギは「保守と革新の連立」

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――「それは、おまえが搾った牛乳から生まれたものだ。よく味わえ。ちゃんと働けば、ちゃんといつか報われる日が来る」

これはセリフの冒頭。このあたりはまだ「朝ドラらしさ」が残っている。「努力したら報われる」という(昭和の)朝ドラ的な価値観が色濃い。しかし。

――「報われなければ、働き方が悪いか、働かせる者が悪いんだ。そんなとこはとっとと逃げ出しゃいいんだ」

ここは、よく読めば「努力したら報われる」という価値観を放棄している。とくに「報われなければ」→「働かせる者が悪いんだ」のくだりには、野暮ながら深読みすれば、昨今のブラック企業の問題などを想起させるし、また「働き方」という言葉にも、最近話題の「働き方改革」との関連を感じる。セリフは続く。

――「だが、一番悪いのは、人が何とかしてくれると思って生きることじゃ。人は人をアテにする者を助けたりはせん。逆に自分の力を信じて働いていれば、きっと誰かが助けてくれるのだ(後略)」

とセリフがまとまって、私は朝から感涙したのだが、その涙には、セリフが単に「いい話」に帰結したことを超えて、現代にしっかりとリンケージしたセリフの中間部が大いに加勢したと自己分析した。

平成を代表する朝ドラと比べてみる

ここで思い出すのは、平成と昭和、それぞれを代表する傑作朝ドラである。まず平成では「カーネーション」(2011年~2012年)。朝ドラ初のギャラクシー賞を受賞し、先の木俣冬氏は前掲書で「朝ドラを超えた朝ドラ」と評している。

そんな「カーネーション」の、あまたある名セリフの中で1つ挙げるとすれば、戦後すぐのがれきだらけの東京で、主人公・小原糸子(尾野真千子)の金を盗んだ戦災孤児の女の子(奥原なつと呼応)のことを思い出して、糸子が語るモノローグ。

――「生き延びや。おばちゃんら、がんばって、もっともっとええ世の中にしちゃるさかい。生き延びるんやで」

重要なのは、「カーネーション」が東日本大震災の約半年後から放映されたことである。私はこのときも、このセリフを深読みし、被災地の子どもたちへのメッセージと受け取って感涙した。

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