補助金不正受給や突然の廃園…保育園で不祥事多発、企業参入は大丈夫か
認証保育園に関しては、都が04年7月に実施した「利用者満足度」の調査を見てもさまざまな意見があることがわかる。「保育士の対応」や「保育園の雰囲気」「利用しやすい場所にあること」などで50%以上の利用者が「特に満足」を感じている反面、「園庭がない」「保育料(が高い)」ことなどで、半数以上が「不満」と回答している。
認証保育園は、開設コストや運営コストを低く抑えるために、(1)園庭は不要、(2)有資格者は職員定数の6割以上であれば可、(3)施設基準(乳児室、ほふく室)は2・5平方メートルまで弾力化(認可保育園は3・3平方メートル)などの規制緩和がなされている。一方、国からの支援がなく、1園当たりの財政補助が認可園と比べて少ないことから、保育料は割高だ(3歳未満児で月8万円が上限)。
ただ、共働き夫婦の増加などから都内では保育園に入園が必要な児童が年々増加。自治体が財源難などを理由に認可保育園の新設に消極的な姿勢を強める中で、認可園に入れない低年齢の子どもの受け皿を認証保育園が果たしてきたのは紛れもない事実だ。そして株式会社など企業を呼び込むために、経費融通の仕組みを柔軟にし、配当財源を確保しやすいようにしたことも、認証保育園の急増を後押しした。
不正を発見できない行政
しかし、最近の不正の続発は、保育という福祉事業を、営利目的の株式会社に委ねることのリスクの高さを浮き彫りにしている。全園を突然閉園したエムケイグループは、通信機器およびOA機器の販売のために1996年に設立。保育事業への参入は03年からだが、経営破綻の直前の昨年8月、埼玉県内の5施設の営業権と3施設の業務委託料や補助金を担保に多額の借金をしていた事実が共産党の調査で判明。中野区の認証保育園の開園はその翌月だった。また、埼玉県内の系列園では、昨年4月から給与の遅配も発生していたが、都は認証審査の段階でそれらの事実を把握していなかった。さらに中野区の同園では、給与が遅配のまま、保育職員が解雇される事態になった。
小田急ムック成城園の開園に際しても、都は不正を見逃した。小田急ライフアソシエは、有資格で経験のある保育士をそろえることができず、未経験や保育士資格のないパート職員で代替。その事実を隠して、他園の職員が勤務しているかに装い、補助金を不正に受給した。
「売り手市場で保育士の採用が困難だった。コンプライアンス意識が欠如していた」(水上秀博・取締役総務部長)などと同社は弁明するが、悪質性はなかったのか。当時在籍していた保育士らによる再三にわたる職場改善の要請に対し、「雇われているのに生意気だ」「嫌なら辞めてもらってもいい」などと幹部社員が暴言を吐き、開設からわずか1年で十数人もの職員が辞めていったと元保育士は証言している。
認証保育園をめぐる不祥事が見過ごせないのは、現在、厚生労働省が「新待機児童ゼロ作戦」と銘打ち、保育園受け入れ児童数を今後100万人増やす構想を打ち出していることにもある。急ピッチでの受け入れ増を実現するために、厚労省は株式会社の保育事業への全面的な参入を含む「新たな保育メカニズム」の導入を提起。制度化を進めようとしている。そして、そこに盛り込まれた仕組みの多くは、保育園と利用者との直接契約をはじめとして、都の認証保育制度と似通っている。
保育制度の改革に際しては、認証保育園の混乱を教訓にすべきだ。混乱の最大の犠牲者は、物言えぬ子どもだからである。
(岡田広行 =週刊東洋経済)
※写真と本文は関係ありません
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