MMTも主流派経済学もどっちもどっちな理由

「レバレッジを制御できないこと」が問題だ!

ここで、「政府債務」、「民間債務」、「海外債務」というマネーサプライ創出の3部門におけるコントローラビリティとは、いったいどういうことなのかという点について、最も重要な視点を提示しておこう。

先ほども述べたが、例えば「政府債務」について、「財政赤字を出して国債発行を行っても、民間資産の増加も伴うため誰の負担にもならない」というMMTの理屈は「両建て」でのバランスシート拡大のことを指している。しかし、問題は「レバレッジ」、つまりリスクの拡大にあるのだ。「信用創造」=「レバレッジ」という、金融実務においては当然すぎる議論の整理を、経済学者も行なう必要がある。

「両建て取引では負債に見合う資産があるので大丈夫」というのは30年前、1980年代後半のバブル期の日本で盛んに流行ったロジックである。「借金をしても見合う資産がある」、それどころか「むしろ資産には含み益があるので、それを担保にもっと借金ができる」といった具合である。つまり、「政府債務」でも「民間債務」でも、「両建て取引」あるいは「レバレッジ」はそれ自体では「会計上」はつねに「中立」に見えるのである。

「レバレッジ拡大政策」を空疎な理論で決定するな

しかし、これを無制限に拡大させていった場合に、過去に何が起こったのか、先に何が起こりうるかといったイマジネーションを広げてみる必要がある。リーマン危機も然りだが、「レバレッジ」の拡大はどこかで「リスク感覚」を麻痺させる。「両建てで負債に見合った資産ならば」ということで、経済主体は「過大なリスク」を取りがちである。これを政府部門のケースでいえば、まったくムダに終わる公的事業に資金を費やすようなことが平気で行われる。簿価評価の負債に対して時価評価の資産が大幅に毀損していく事態が生じれば、「誰かの借金は誰かの資産」ではなくなってくるのである。

もちろん、現在の日本を含めた先進諸国においてこの「過大なレバレッジ」が問題を引き起こす段階にあるのか、と言えばそうではないかもしれない。国ベースで言えば、レバレッジの極端な拡大は、1980年代の日本で生じ、これに1990年代後半から2000年代にかけて米国が続き、2000年代にはユーロ圏が追随した。そして、リーマン危機後から2010年代にかけては中国のレバレッジがとんでもない水準に達している。2019年現在ということでいえば、先進諸国においてはむしろ「レバレッジが過小」であるとの指摘はおそらく正しいのだろう。

しかし、時期は予想できないものの中国のレバレッジ崩壊のリスクがこれほど高まっている中で、安直に先進諸国がレバレッジ拡大を志向していくべきなのかといえば、長期的な観点からは疑問符が付く。そもそも、既に述べたように財政政策であれ金融政策であれ、「レバレッジ」の水準(=これが要はマネーサプライの水準を決定する)を完全にコントロールすることなどはできない。過大になれば抑制し過小になれば拡大すればよい、というほど簡単な話ではまったくないのである。

その意味で、レバレッジ拡大政策を取るかどうかの判断は、「理論」の領域ではなく、「グローバルな経済状況」、「国ごとのさまざまな事情」、「経済政策決定における政治プロセス」など、広範にわたる「現実」の領域が決定的に影響してくるということを踏まえたものでなければならない。不確かな「理論」が政治的に「つまみ食い」されるリスクもつねに存在しており、「理論上」の論争で勝ち負けを決めることほど無意味なことはない。

この点において、経済学者の議論は、主流派経済学者もMMT論者も五十歩百歩、どっちもどっちだと言わざるをえない。「あなた方にはそんなことを決める能力はない、バカ!」と声を大にして言いたいところである。

(コラム)日銀は『マネーサプライの増減と信用面の対応』という統計を2003年に発表を停止するまで何十年にもわたって継続して作成していたが、この統計はマネーサプライの増減が政府債務、民間部門債務、海外債務(=経常収支)のどの部門の増減によって起こっているのかをフローベースで捕捉するためのものであった。つまり、日銀はMMTの言っているようなことを現実の経済と資金の動きに照らしてずっとウォッチしていた。
現在も継続する『マネタリーサーベイ』というストックデータから同じデータを作成することは可能である。こうしたストックベースの統計を公表している中央銀行は他にもある。
日銀は、財政政策がマネーサプライ(=銀行預金)を創出し増減させていることを「当然のメカニズム」として認識していたわけであり、むしろ、マネーサプライの全体構造は民間部門債務と海外債務を併せた3部門の動向を見ることで初めて正確に把握できると考えていたわけである。
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