パチンコの「MAX機」は一体何がまずかったのか 全国に違法機があふれかえってしまった事情

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このような性能の遊技機は規制上、大きな問題がある。一般にパチンコは「始動口」と呼ばれる盤面中央の大当たりの抽選が行われるメインの入賞口に玉が入ると3個の払い出しが行われる。

つまり採算ラインでは、100玉投入すると3×6.5=19.5で約20玉の払い出しが行われることになるが、これではベースが20にしかならず、前述の役物比率「35」が達成できずに法律違反になってしまう。

したがって役物比率規制を達成するには、始動口への入賞を減らして、一般入賞口の入賞を増やす必要がある。具体的には始動口への入賞を100玉あたり5個程度に減らして大当たり抽選の回数を減らし、他方で大当たりの抽選とは関係ない左右に配置されている一般入賞口から20個前後の払い出しをさせて、役物比率を上げるべくバランスを取る必要がある。

ただこうすると、いわゆる「回らない」スピード性に欠ける退屈な機種ができあがってしまい、それだと客がつかず人気が出ない機種になってしまう。このように本来パチンコの規制は、ギャンブルの「波の荒さ」と「スピード性」が両立しないように規制されており、総合的なギャンブル性が高くならないように設計されていた。

規制を逃れるために起きた「不正釘問題」

この規制は遊技人口が減る中で、なんとか売り上げを保つためにギャンブル性を高めて平均客単価を高めたいパチンコ業界にとって、非常に厄介なものだった。特に厄介だったのがギャンブルのスピード性を規制する、役物比率に関わる規制であった。

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そこでパチンコ業界は業界ぐるみで、この規制を逃れるための不正に走るようになる。それが「不正釘問題」だったというわけである。メーカー、ホールは、検定取得後に不正に釘曲げをすることで、一般入賞口に玉を入らないようにする一方、始動口に玉が入りやすくすることで、ギャンブルの「波の荒さ」と「スピード性」の両立を可能としたのである。こうして日本全国のホールは違法機であふれることになったというわけである。

アンチ・パチンコのスタンスを取る人はパチンコを「違法ギャンブル」とよく呼ぶが、文字どおり2015年から2017年にかけては、全国のパチンコホールは「違法ギャンブル場」と化してしまったと言えよう。

警察庁は2018年2月に風営法施行規則を大幅に改正・施行して、MAX機の大当たり確率の上限を320分の1とし、1回の大当たりで得られる出玉も従来よりも大幅に縮小させるなどパチンコのギャンブル性を下げる取り組みを本格化しつつあるが、これだけ歪んでしまった業界をどのように立て直すか、というのは非常に難しい問題である。

宇佐美 典也 エネルギーコンサルタント

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うさみ のりや / Noriya Usami

1981年、東京都生まれ。暁星高校、東京大学経済学部を経て、経済産業省に入省。企業立地促進政策、農商工連携政策、技術関連法制の見直しを担当したのち、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)にて電機・IT分野の国家プロジェクトの立案およびマネジメントを担当。2012年9月に経済産業省を退職。現在、再生可能エネルギー分野や地域活性化分野のコンサルティングを展開している。著書に『30歳キャリア官僚が最後にどうしても伝えたいこと』(ダイヤモンド社)、『肩書き捨てたら地獄だった - 挫折した元官僚が教える「頼れない」時代の働き方』(中公新書ラクレ) など。

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