「管理職1年目のリーダー」が陥りやすい失敗 大切なミッションは「チーム成果の最大化」

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スピード感が要求される時代だからこそ、急がば回れです。さまざまな視点を手に入れ、視座を高めてチーム全体を見ながら、チームの成果を最大化させるための、自分が考えるチーム運営の姿を打ち出せばよいのです。

管理職としてメンバーに「話を聞かせてほしい」というメッセージを送るときに、もう1つはっきりと伝えておくべきことがあります。それは、「最終的に決めるのは自分であること、そして、メンバーはそれに従ってもらいたい」ということです。

チーム運営は民主主義の幼稚園ではありません。さまざまな話をしっかりと受け止めることは大切ですが、それらをすべて受け入れる必要はありません。全員が満足するようなチーム運営などありえませんし、メンバーの反対を押し切って決めることが必要な場合もあります。

管理職が周りの人の話を聞くのは、合意形成を図るためでもなく、すべての部下の希望をかなえるためでもなく、ましてやガス抜きのためでもありません。管理職としてチームの成果の最大化に向けて質の高い決断をするために、それが必要だからです。

部下は上司を3日で見極める

アメリカ企業はトップダウンの文化と言われていますが、これは必ずしも正確な表現ではありません。トップダウンというのは、単に上司が決めたことを部下に伝えるというチーム運営上必要なプロセスにすぎず、日本でも、責任者が自分の決断を毅然とした姿勢でメンバーに伝える企業はたくさんあります。

逆に、決めることができない組織、決めたことを伝えることができない組織、決めたことに部下が従わない組織、つまりトップダウンのプロセスが機能しない組織は、意思統一ができずにスピード感に欠けた生産性の低い組織となってしまいます。

アメリカ企業がトップダウンの文化だと思われているのは、「上司が決めたことには部下は従う」という合意の存在が大きな理由です。たとえ上司の判断が自分の考えと違っていても、決まった以上はその方向で全力を尽くすというのがアメリカ流のやり方です。

だからこそ、上司も広く意見を求めますし、部下も普段から自分の意見をはっきりと言うのです。アメリカ企業は、①ボトムアップで必要な情報を集め、②質の高い決断をトップダウンで伝え、③それをチームは実行する、という極めて当たり前のプロセスを実行しているにすぎないのです。

これに対して日本企業では、人前では意見を言わないくせに、決まったあとにコソコソと裏工作したり、上司の判断に陰で異を唱えたりするなどの面従腹背的な行いが頻発します。だからこそ、「決めたことには従ってもらう」という合意形成が必要なのです。

これは、すべてのことを管理職が決めるといった、中央集権的なマネジメントを意味しているわけではありません。私がいたアメリカ企業も、可能な限り部下に仕事を任せたり権限委譲によって現場の判断機能を高めるといった、自発的な分散処理型の組織を目指していました。そのほうが、より高い生産性でより大きな成果を出せるからです。

それでも、チームの成果の最大化のために、管理職にしかできない高いレベルの意思決定の場面があります。そのようなときこそ、「大きな耳と強靱な足腰」で手にした質の高い決断力が役に立つのです。

「上司は部下を理解するのに3年かかるが、部下は上司を3日で見極める」と言われます。自分が部下を見ている何倍もの関心を持って部下は上司を見ています。「大きな耳と強靱な足腰」で、部下の力を借りながら質の高い決断ができるような信頼関係を作り上げることが、管理職1年目のリーダーに求められることです。

櫻田 毅 人材活性ビジネスコーチ

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さくらだ たけし / Takeshi Sakurada

アークス&コーチング代表。九州大学大学院工学研究科修了後、三井造船で深海調査船の開発に従事。日興證券(当時)での投資開発課長、投資技術研究室長などを経て、米系資産運用会社ラッセル・インベストメントで資産運用コンサルティング部長。その後、執行役COO(最高執行責任者)として米国人CEO(最高経営責任者)と共に経営に携わる。2010年に独立後、研修や講演などを通じて年間約1500人のビジネスパーソンの成長支援に関わる。近著に『管理職1年目の教科書』(東洋経済新報社)がある。

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