全米が「M・ジャクソン告発映画」に驚愕するワケ 憧れのスターに「性的虐待」受けた男性の告白

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もし息子がマイケルにあんな目に遭わされたとしたらと思うと怒りが込み上げてきたと言うロブソンは、世間から非難されるのを覚悟のうえで、ジャクソンの死の4年後である2013年、マイケル・ジャクソン財団を訴訟した。そのときにテレビに出たロブソンを見て、セーフチャックも、妻をはじめとする家族に打ち明ける。

この時点で、ロブソンとセーフチャックは、子どもの頃にネバーランドでちらりと会ったことがある程度の関係。相手も、自分と同じ体験をしていたとは、知らなかった。その後もしばらく接触はできなかったのだが、ここからふたりは、それぞれに、しかし同じように、立ち上がるための道を同時に歩み始めたのだ(ロブソンの訴訟は、遅すぎたという理由で2017年に棄却されている)。

今作に対して、マイケルの遺族は、早くから抗議をし続けている。発表された声明の中で、彼らは、マイケル側のコメントがいっさいない今作は一方的な視点に基づくもので、金目当てだと非難。また、マイケルが裁判で無罪になっていることも強調している。マイケルの熱烈なファンも激怒した。一部のファンは、今作が上映された1月のサンダンス映画祭にも駆けつけ、抗議運動を展開している。ツイッターにも、ファンによる非難コメントが飛び交い続けている。

しかし、一方的と言うならば、映画を見てもいないのに反対することが、まさにそうだろう。非難する人の多くは、1993年の裁判でロブソンとセーフチャックがマイケルを弁護していることを挙げるが、映画の中ではそれに対する十分な説明がなされている。ついに事実を知った母に「どうして教えてくれなかったの」と言われたとき、ロブソンは、「それはすごく複雑な質問だと思った」とも語っている。どれほど複雑であるかは、この映画を見れば理解できるはずだ。

自分の性被害を「家族に明かす」恐怖

虐待という言葉はもちろん、性行為の観念すらなかった子ども時代の彼らは、会えばいつも優しく、会えないときは毎日のように熱烈なラブレターをファックスしてくれるこのヒーローを、決して疑わなかった。

大人になって疑問が湧くようになってからは、事実を認めれば、自分や家族のそこまでの人生を否定し、ぶち壊すことになると恐れた。セラピーに通うようになっても、ロブソンはその部分だけは言わなかったし、第2部の直後に放映された特別インタビュー番組でも、「自分に子どもが生まれていなかったら、今も黙っていたと思う」と語る。彼らが自分で事実を受け止めるには、それだけの時間が必要だったのだ。

人気司会者のオプラ・ウィンフリーがホストを務めたそのインタビューでは(彼女自身も、子どもの頃、親戚から性的虐待を受けている)、6人に1人の男性が性的虐待を経験していることにも触れられている。「#MeToo」の発端になったのは、権力を持つ男による、若い女性へのセクハラだったが、この問題にはまだまだいくつもの層があったのだ。

映画「Leaving Neverland」は、その一つか二つを掘り下げるもの。それに対してわれわれがすべきことは、聞くことだ。マイケルのファンか、そうでないかはさておいて、まずは、耳を傾けてみたい。

猿渡 由紀 L.A.在住映画ジャーナリスト

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さるわたり ゆき / Yuki Saruwatari

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒業。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場リポート記事、ハリウッド事情のコラムを、『シュプール』『ハーパース バザー日本版』『バイラ』『週刊SPA!』『Movie ぴあ』『キネマ旬報』のほか、雑誌や新聞、Yahoo、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。

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