なぜマクロミルはファンドに買われるのか 創業者の杉本哲哉・会長兼社長が語る
――公開したままでも、事業構造の変革は行えるのでは。
そこは議論の余地があると思うが、半分は好みの問題でしょう。私の感覚では、時価総額300億円とか400億円というサイズで上場していることの難しさを感じていた。特にやりにくかったのが投資。思い切った投資がしづらい。当社の株価収益率(PER)は比較的高く、25倍前後ぐらいのPERがある。それを維持しようと思えば、純利益の額がとても大切になるが、たった5億円の投資でも、その投資が失敗すれば時価総額にして100億円以上の価値が飛んでしまうかもしれない。そう考えると、どうしても大胆な投資を躊躇してしまうんですよ。
――BS(貸借対照表)は無借金なのだから、一度くらいPL(損益計算書)が赤字になってもいいだろう、という考え方もある。
当社は上場してから10年、1回も約束を裏切っていません。どういうことかというと、必ず期初に掲げた目標は達成してきた。またVC(ベンチャーキャピタル)的な無茶なこともやってこなかった。裏を返せば面白味のない会社とも言えるだろうが、これは事業領域がB2B(企業間取引)ということも影響していたと思う。B2C(消費者向け取引)であれば派手にテレビCM打つこともあるが、ネットリサーチは企業をサポートする黒子のような存在なので、sure(シュア)な経営を旨としてきた。
もちろん今後もシュアな経営は続けていく。じゃあシュアさだけで昨今の変化の波を乗り切れるのか、という論点があるわけです。いま、スマートフォンがマーケティングに大きな影響を与えるインフラになりつつある。ハードウエアの環境が大きく転換している、というのが1つ目の変化。2番目の変化は、国内が成熟する中でグローバル展開が必要になっているという点。こうした観点から、非上場化によりスピーディーに経営していくことが必要と判断しました。
新事業育成の陣頭指揮を執る
――ベインに決めた理由は?
ベインは7兆円の運用資産を持っており、ものすごく多くのトラックレコード(収益実績の履歴)があります。コンサルティングと投資が一体で、この業界への知見も深い。たとえば米国のセルフ型アンケートサービス会社であるサーベイモンキーのグローバル展開をサポートしたチームもいる。グローバル展開力、この業界への知見など、当社に必要な要素を持っています。
――非上場化後も、杉本さんは経営を続ける?
しっかりとお話したいのはその点です。「杉本、次はなにをやるの」とか、「自由になっていいね」みたいなことも言われたのですが、まったくの誤解。ベインとは経営委任契約を結んでおり、引き続き経営に責任を持つことになっています。
その意味では、これからますます経営に力を入れていきます。特に、新規事業の育成に力を入れる。スマホとマーケティングが重なった領域の部分では小規模店舗向けのロングテールサービスがものすごく重要になります。そこでの新規事業を立ち上げる陣頭指揮を行う。もちろん既存のリサーチもしっかりやりますが、すでにしっかりとした組織があり、相当程度任せられる状況だ。
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