猫の楽園「青島」の想像よりはるかに厳しい現実

たくさん生まれてもバタバタと死んでいく

最終的に捕獲された数は210頭。うちすでに手術済みだった猫を除いた172頭を、一昼夜で手術するというハードなプロジェクトになったのだ。

翌朝早く、麻酔から覚めた猫たちをケージから放し、関係者は午前便の船に乗り込んで島を出た。朝の光の中でSさんと島民Kさんが手を取り合い、涙を流しながらプロジェクトの成功を喜んでいた。

Kさんはこのときこう話していたという。

人気猫・ドキンちゃん。片耳の先がカットされているのは手術済みの印(撮影/瀬戸内みなみ) 

「これまでは猫たちがかわいそうでした。ここで生まれた子猫たちはすぐ死ぬんですよ。オスに噛み殺されて、頭だけになったり、手足だけバラバラになっていたり。もうそんなの見るのはイヤなんです。メスも、ごはんを食べることもできないくらい、オスに囲まれて襲われ続けていたんです。オス同士はケンカして、ケガが絶えなくて。だから手術をすることでそんなことがなくなって、みんなが穏やかに暮らせるようになれば本当にうれしい」

さて、これから青島はどうなっていくのだろうか。Kさんが望むような平和な日々が、すぐにやってくればいいのだが……。

猫に手術をして生殖の権利を奪うのは、人間のエゴだという意見もある。一面では確かにその通りだ。青島への訪問者たち、「青島ファン」からも、ほんの一部だがそんな声が上がっていたという。猫がかわいそうだ、そんなことをして島から猫がいなくなったらどうするのか。もちろん、部外者の無責任な意見に耳を傾ける必要はない。

住民たちに残った不満

だが問題なのは、当の島民の間にもどうやらそういう不満が残っているらしいということだ。島民全員の意向を確認したうえで、市はプロジェクトを実施したのにも関わらず、である。

昨年10月には210頭の猫が不妊・去勢手術済みであることが確認されたわけだが、実はそのほかに、未手術の猫が10数頭ほどいたことが後になってわかった。不満を持つ島民がこっそり隠していたのだ。

しかもその猫たちや島外からの支援で届けられるキャットフードなどをめぐって、現在トラブルが深刻化しているという。たった3世帯しかない狭い島でのこと、なんと厳しい状況なのだろう。

今では大洲市が住民の間に入っているそうだ。市に責任があるとは思わないが、問題に対応できるのも、市しかないのではないだろうか。青島は本当に特殊な「猫島」なのだから。

それでもやはりその本質は、普遍的なものなのかもしれない。人間のエゴと都合のぶつかり合い。複雑怪奇で、ときに泥沼化していく人間関係。そしてそれに振り回されて犠牲になるのは、いつも弱い立場にある猫たちなのだ。猫問題とは、つまり人間の問題にほかならない。

その意味でも、青島の未来はこれからも注目され続けるだろう。

(文/写真:瀬戸内みなみ)

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