入居時には、すでに再開発計画が決まっていたとのこと。そこで、3年間限定で杉の子のママを引き受けたという。
「お店があったのは、桜並木の通りに面したビル。急な階段を13段上がった先にあるの。広さは7坪程度。居抜きで入ったから、50年続いたスナック杉の子の名前も雰囲気もすべて受け継いだ。店内にはカウンターとボックス席1つ。前オーナー時代のお客様が『杉の子が再開した』と聞いて駆けつけてくれたり、杉の子の看板を見てふらっと入ってくれたりする人もいた。店内はいつもすぐ満員になっちゃって。肩が触れ合う近さで飲むから、心の距離も縮まる。人情を感じられる温かい雰囲気で、お客様同士もすぐに仲よくなって、みんなでカラオケを歌っている。そんなお店よ」
常連客や近隣の店と協力して店を切り盛り
そんなスナック杉の子には、実にさまざまな人が通っていたそう。
「渋谷だからなのか、桜丘町だからなのかはわからないけど、多種多様なお客様が来てくれた。それこそ、20代から80代の人まで。職業もさまざまで、IT系や銀行関連の会社員、音楽関係者、公務員、大学生、主婦、それから親子2代で通ってくれる人もいたわ。女性の客様も多くてね。店同士も協力していて、うちが満員で入りきらないときは、隣のバーに連絡して待ってもらったり。その逆もあったわね。お客様の少ないときは、情報交換をしながら助け合っていたわ」
多種多様な人が通い、近隣店舗同士が協力し合ってお店を切り盛りする。まさに、古き良き時代の名残を感じさせる風情がある。
ところで、再開発に伴う立ち退きの際は、どのような状況だったのだろうか。
「お店の立ち退き期限は2018年10月27日。周りのビルは次々に閉鎖するし、顔見知りのお店も再開発で店を閉じてしまう。うちも、次の物件が見つからずに苦労した。お客様も協力して探してくれてね。結局は、立ち退き当日になっても決まらず、次の物件が決まるまで中目黒のガールズバーや二子玉川のクラブを間借りして営業を続けていたのよ」
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