渋谷では今、“100年に1度”の大規模な再開発が進められている。2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向け、東京観光のハブ的役割を担うこの地が、さらなる進化を遂げようとしているのだ。その背景には、ビルの老朽化やオフィス不足などの諸問題がある。
こうした再開発の波は、渋谷駅に隣接する地域だけでなく、宇田川町、道玄坂、さらには桜丘町へと広がっている。とくに桜丘町では、古き良き“昭和の面影”であり、時代を感じさせる一角がまたひとつ、消えることとなった。そこには、われらがスナックも含まれていた。
再開発で様変わりする桜丘町
渋谷駅の南側に位置し、国道246号線をまたいだ渋谷駅西口歩道橋を渡ると見えてくる桜丘町。春先には、桜並木が道行く人の足を止める。楽器店やスポーツショップ、ライブハウス、卓球専門店など、多彩な文化が交差する。夜には立ち飲み屋をはじめ、居酒屋、バーなど、昭和のレトロな雰囲気を感じながら飲める貴重なエリアであった。
しかし、2019年1月からの再開発工事に伴い、各店舗は完全閉鎖となった。立ち退き期限は2018年10月末。多くの人を魅了してきたナイトスポットも、この地を去ることを余儀なくされた。今後は、約2.6ヘクタールの敷地にオフィス・店舗・住宅・サービスアパートメント・教会など、超高層複合ビルを含む新たな街が誕生する。
今回の立ち退きエリアには、残念ながら昭和の雰囲気漂うスナックも3~4件ほど含まれており、移転する店舗も少なくない中、店主が高齢であったり、あるいは体調を崩したりしたために、店をたたまざるを得ないところもあったという。こうして古き良き文化が失われ、そこに集うファンが消えゆくことは、実に悲しいことである。
一方で今年1月下旬、移転という形で名前を残し、道玄坂にオープンしたスナックもある。スナック「杉の子」だ。
「杉の子は、かれこれ50年以上続いているお店。もともとバーだったんだけど、私がママになるタイミングでスナックとして再オープンしてから3年ぐらい経つかしら」と、杉の子の薫子ママは話す。「前のオーナーがご病気でこの世を去り、しばらくはオーナー不在で。そんなある日、近くのクラブで働いていた私に、杉の子の物件オーナーが『杉の子のママやらない?』って声をかけてくれて。それからママを務めるようになりました」。
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