鉄道模型「ジオラマとNゲージ」の深すぎる世界 撮影のプロ・金盛正樹さんが解説

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そのキーワードから頭の中でイメージを構築し、それを具現化していくのである。最初の頃は専門家が制作してくれたジオラマを使用して撮影していた。

新宿―大久保・新大久保間の山手線と総武・中央線が分離する辺りを再現している。時代は昭和50年代後半。24ミリ改造ピンホールレンズに1.4倍テレコンバーターをつけて撮影している(写真:金盛正樹)

しかし手先の器用さには多少の自信を持っていたことと、何でも自分でやりたい性格から、徐々に撮影用のジオラマ作りのコツを習得し、今では撮影に必要な風景は自分で作成するようになった。とはいうものの、展示に堪えうるきっちりとしたジオラマを作るわけではない。撮影台の上に線路、建物、樹木……といった部材を仮置きして一時的な風景を作るだけである。

「たくさんのジオラマをお持ちなんですね」と私の写真を見た人からよく言われるのだが、もしそうなら、あっという間に家はジオラマで埋め尽くされてしまう(笑)。レンズ前の風景はシャッターを切った途端に、次のカットを撮影するために壊されてしまう。まったく同じ風景をもう一度作ることはできない。そういった意味では、実物の鉄道写真同様、私のNゲージの撮影は一期一会なのである。

実物ではありえない撮影も可能

今ではその奥深さ、おもしろさにどっぷりと浸っている私だが、当初は実物の鉄道ほどには撮影を楽しむことができず、模型のNゲージのほうはあくまで仕事、と割り切って撮影に臨んでいた。ところが経験を重ねていくうちに、実物の鉄道写真ではかなわないNゲージ撮影でしか得られない魅力、例えば季節や時間を好きに設定できる、実物ではありえないアングルから撮ることができる、実際には一緒になることのない車両を時空を超えて並べることができる、といった魅力に気づくようになったのである。

脱線した車両を復旧させるための訓練シーン。しかしこのような訓練が実際にあるかは不明。想像を形にできるのも、模型写真のおもしろいところ(写真:金盛正樹)

そして私の中で両者は互いに補完し合う関係になっていった。実物の鉄道を撮るときに見た風景、得た知識や感動をNゲージ撮影に反映し、Nゲージ撮影で試みたフレーミングやライティングを実物撮影で実践してみる。このようなやり取りが自然になされるようになったのである。いまや私が写真を高めていくうえで、両者は切っても切れない関係になっている。

これからも大谷選手よろしく、鉄道写真界の二刀流を貫いていきたいと思っている。

先に述べたように私が撮っているNゲージは、線路幅がたった9ミリという小さな模型である。車両断面はカメラのレンズ口径よりも小さく、マクロ撮影の領域に入る。そのため撮影機材の面でも技術面でも、実物の鉄道撮影とは大きく異なる。

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