鉄道模型「ジオラマとNゲージ」の深すぎる世界 撮影のプロ・金盛正樹さんが解説

ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

まず撮影機材ではマクロレンズが必須である。私は50ミリマクロと100ミリマクロを常用している。しかしこれだけでは画角のバリエーションが乏しいので、広角レンズや望遠レンズを近接で使えるように接写リングも多用している。

夜行列車「ムーンライトえちご」が朝を迎えた。青色のセロハンをかけたライトと、オレンジ色のセロハンをかけたライトの光をミックスさせて、朝焼けを作り出している(写真:金盛正樹)

ところで近接撮影というのは、被写界深度が非常に浅くなってしまう。いくらマクロレンズの最大絞り値(私の使用しているレンズではf32)まで絞り込んでも、被写界深度の浅い写真になってしまう。そうするとリアリティーのある鉄道風景には見えなくなってしまう。

そこでアオリ機能で奥までピントを合わせることのできるシフトレンズも不可欠となる。しかしシフトレンズは非常に高価なため、焦点距離の異なるものを何本もそろえることは困難なので、私は所有している24ミリのシフトレンズにテレコンをつけて画角を調節している。

特殊機材とパソコンでイメージに近づける

もう一つ、私にとって重要なレンズがある。でもそれは市販されていない、この世に1本だけのレンズである。こんなふうに言うと、どれほど高価なレンズなんだろうと思われるかもしれないが、AFが普及する以前の時代に、某レンズメーカー(現在はマニアックなラインアップで、クラシックカメラファンを中心に支持されている)が発売していた24ミリの単玉、購入価格なんと9千円である。

これを一度分解し、絞り羽根が機械的限界まで絞り込めるようにした、改造ピンホールレンズである。f90近くまで絞れるので、近接撮影でもパンフォーカスに近い写真が得られる。ただしこれだけ絞り込むと、光の回折効果で絞りボケが起こってしまうが、そのデメリットよりも、奥までピントが合うメリットのほうが作画上重要ということで多用している。こちらにも画角調節のために、テレコンをつけて使用している。

(写真左)雪景色を行く北海道のディーゼル特急「スーパーとかち」。車両のわきの雪の塊の質感に注目してほしい。雪は全て片栗粉である(写真右)有明海をバックに博多を目指す特急「有明」。エンボス状の表面を持つ透明ビニールシートに、空の青色を反射させて海を表現している(写真:金盛正樹)

またパソコンもなくてはならない機材の一つと言える。ソフトによる後処理なしには、写真が完成しないからだ。

『アサヒカメラ 2019年 02 月号』(書影をクリックすると、アマゾンのサイトにジャンプします)

フォトレタッチソフトで色やトーンの調整をするほか、車体についたゴミを消したりもする。目に見えないゴミも、大きく写ってしまうのだ。さらに場合によっては合成をすることもある。実物の鉄道写真では、「あるもの」を消したり、「ないもの」を合成で加えたりするのはタブー視されているが、模型ではためらいなくできるので、模型撮影ならではのおもしろさとも言える。

このように特殊機材とパソコンによる後処理の併用で、よりイメージに近くリアリティーのある写真を作り上げることができるのである。

※「アサヒカメラ」2月号から抜粋

金盛正樹(かなもり まさき)/1967(昭和42)年神戸市生まれ。千葉大学工学部画像工学科卒。中学生のときに友達の誘いで、鉄道を撮り始める。大学卒業後、商業写真プロダクション「ササキスタジオ」に7年在籍。96年からフリー。鉄道専門誌や一般誌の鉄道企画に写真を発表する傍ら、Nゲージ鉄道模型の撮影も行っている。日本鉄道写真作家協会(JRPS)会員。
AERA dot.
あえらどっと

朝日新聞出版が運営するニュース・情報サイトです。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事