「統計偽装国家」日本が中国を全然笑えない現実 毎月勤労統計の不正が映す政府・官僚の腐敗

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おそらく今回の不正調査の問題も、厚労省以外の省庁の官僚はまったくのひとごとだと思っているに違いない。厚労省の統計部門を除いたセクションの官僚たちも、おそらくひとごとだと思っているはずだ。

チェック体制の甘さが生んだ不正調査

不正調査は、なぜ15年も見過ごされてきたのか……。簡単に言えば、厚労省内だけのチェックであったために見過ごされたことと、そして不正と知りながら携わってきた厚労省の官僚や東京都の職員が、自分の身を守るために口をつぐんできたからであろう。

公務員には、確かに守秘義務(職務上知りえた秘密を外部に漏らしてはいけない)があるものの、憲法や法令を遵守する義務があり、さらに国家公務員法で「国民全体の奉仕者として、公共の利益のために勤務」することが義務化されている。そういう意味では、内部告発制度やマスコミによる自浄能力が、日本では先進国のレベルに達していないことを意味している 。

個人よりも組織を大切にする日本型官僚機構の大きな欠点と言っていいだろう。これは官庁だけの問題ではなく、強いて言えば日本全体の問題とも言える。日本人は組織が大好きだが、組織はあくまでも個人あっての組織であり、組織のトップは個人よりも組織を重視するかもしれないが、組織の末端の人々は組織よりも個人を大切にするほうが望ましいし、その権利がある。

腐った組織よりも個人を大切にすることが、結果的に組織を守り成長させていくことを日本人のほとんどは知らないと言っていいだろう。それは学校教育によって、子どもの頃から組織への忠誠心をたたき込まれるからだ。こういった組織偏重の体制は日本社会全体にはびこっている。

今回の不正調査の問題解決法として、厚労省ではなく総務省に調査を任せる、といった報道も一部で出ているが、はたして実現できるのか。その報道が正しければ画期的と言えるかもしれない。

問題は、こうした統計の不正調査が毎月勤労統計の問題だけなのかということだ。基幹統計の半数近い23の統計で誤りがあったと発表されている。当初全体の4割にあたる22の統計で不正調査があったと発表されたが、その直後に「小売物価統計」でも不正があったと追加された。

こうした一連の調査不正は、サンプリングが巧妙に使われており、その気になればいくらでも数字を動かすことができることはよく知られている。アベノミクスが始まってからの「GDP(国内総生産)」も、その算出方法を変えている。

内閣府は、GDPの計算方法を変更することで、2015年度の名目GDP確報値が31兆6000億円嵩上げされて、2020年ごろには安倍政権が目指す名目GDP600兆円に近づく、と2016年12月8日に発表した。実際に、自民党広報は安倍政権が誕生して以来5年間で、名目GDPは50兆円も増えたと宣言している。

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