中国「空気と水」の汚染が止まらない 富坂聰氏が描き出す衝撃の現地レポート(前編)
この状況を改善していくためには、個々の家庭で燃やしている石炭や練炭に代えてエネルギーを提供することが大切だ。たとえば暖房用には1カ所で温めた熱湯をまとまった町に提供する方法が有効であるし、また料理にまで石炭を使う家庭にはガスを引くような対策もある。
だが、それらは金銭面からも障害が大きいのに加えて、石炭を常用する低所得者の塊のような集落に対しては、たいてい都市開発の観点からも彼らの住環境を充実させて居座られては大変だという行政サイドの思惑も働いているから複雑なのだ。
また再び産業界に目を向ければ、そこには国家のエネルギー政策の壁も如実に表れてくるのだ。
現在、石炭を多用する企業があふれている中国で、それらを少しずつ石油に代えてゆくだけでも環境には寄与するはずだが、ここで障害となってくるのがエネルギーの対外依存度の問題なのだ。
「お腹がすいているのに環境どころではない」
エネルギーを過度に外国に依存することはエネルギー安全保障という観点から見て歓迎すべきことではないのは当然だ。なかでも中国が神経を尖らせているのは、石油の対外依存度が(第12期5カ年計画において)政府の定めたデッドラインの61%に近づいていることだ。
国家エネルギー局の元局長・張国宝によれば、2012年に中国国内で消費された石油は36億2000万tで輸入量は2億7000万t。それが2013年には3億tにまで膨らむと予測されているのだ。
IEA(国際エネルギー機関)によれば、中国は2035年には石油の対外依存度は80%を超えるとの予測もあるだけに単純に脱石炭への道を進めばよいという話でもないというわけだ。
ついでに触れておけば、自然エネルギーもきわめて頼りない状況だ。たとえば風力発電の発電量はいま中国が世界で最も大きな規模とされているが、それとて全電力のわずか2%を賄っているにすぎないのだ。もとより、現在急ピッチで建設が進められている原子力発電が短期的に中国の問題を改善してくれるはずもないのである。
つまり「現状で北京の空気を劇的に改善できるのは雨と風だけ」(北京のテレビ関係者)という重い現実が横たわっているのだ。
実際11月中旬、266にまで高まっていたPM2.5の数値を劇的に下げる役割を果たしたのは、北から吹き降ろしてくる強烈な風であったと現地の天気予報も報じている。