日本の「精神医療」は患者をダメにしているのか 精神医療には社会のひずみが凝縮している

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──医師の処方内容をチェックすべき薬剤師は機能していない?

もっと医者に「この処方はおかしい」と言わなきゃいけないけれど、門前薬局なんかは医者に干されるおそれがあって言えないというのはまだあります。また、睡眠薬などは長期間服用すると適正量でも薬物依存になりますが、処方が適正量だと言いにくいと思います。

──短時間診療に過剰投薬。患者を人として扱っていませんね。

精神医療関係者が患者をバカにしているというのは感じます。本書に書いた、夫のDVから逃れようと110番通報した女性が、精神錯乱者とされて、措置入院(編集部注:知事などの権限による強制入院)させられたのは好例です。警察官、保健所員、精神科医の誰もまともに女性の話を聞かず、レッテル貼りをして病院に入れてしまう。

犬猫のほうが大事にされている

──精神科医のうち一人は「措置というほどではありませんね」と言いながら「要措置」としました。

なぜ、日本の精神医療は暴走するのか(佐藤光展 著/講談社/1500円+税/285ページ)書影をクリックするとAmazonのサイトにジャンプします。

石郷岡病院において、暴行がもとで患者が死亡したと看護師が起訴された裁判員裁判では、意味不明な理由により罰金30万円で終わり。医療現場のひずみを社会が正さないのです。精神疾患患者への社会の薄情さが医療現場に反映されている。犬猫のほうが大事にされていると思います。

──状況を変えるには?

患者やその家族が声を上げるしかないでしょう。部外者の私がいくら声を上げても「極端な例だ」と言われてしまう。無力感があるのかもしれないが、社会にいちばん響くのは彼ら彼女らの声です。医療にめちゃくちゃにされた患者はそれどころじゃないでしょう。それでも声を上げる必要がある。

精神科の診断基準は、その症状によって本人の社会生活に著しい影響があるかを必ず問題にしています。要は本人が困っていなければ病気ではないのです。発達障害で顕著ですが、変わった人がいて困っているのは周囲の人ではないのか。社会の受け入れ方次第で患者自体が減ると思います。

筒井 幹雄 東洋経済 記者

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つつい みきお / Mikio Tsutsui

『会社四季報』編集長などを経て、現職は編集委員。

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