日本の「精神医療」は患者をダメにしているのか

精神医療には社会のひずみが凝縮している

──なぜ、考えられないような医療が続いているのでしょう。

医療は医者の見た目(視診)と検査の数値に基づいて行われますが、精神科は見た目がすべて。iPS細胞による治療がスーパーカーなら、精神医療は人力車。人力車だからダメ、ではないんです。患者の話を聞いて癒やせればいい。例えば「眠れてますか」に始まって、「そんなに仕事が大変なら会社と交渉しましょうか」というのが本来の精神科です。ところが、ろくすっぽ話も聞かずに「眠れない? じゃあ薬飲んで」となっちゃう。ここに大きな問題がある。

患者が半減してもやっていける

──話を聞かないのは診療報酬制度にも問題があるようですね。

佐藤 光展(さとう みつのぶ)/医療ジャーナリスト、探査ジャーナリズムNGO「ワセダクロニクル」シニアリポーター。読売新聞で15年間医療部に在籍、連載「医療ルネサンス」「ヨミドクター」を執筆。2018年退職しフリーランスに。著書に『精神医療ダークサイド』。(撮影:今井康一)

お金に困ってない精神科の重鎮が開業して、1時間かけて患者の話を聞くと、大して薬を使わなくても1〜2カ月でうつ病が著しく改善したりします。じっくり患者に向き合っても報酬は変わらないので、ある種ボランティア。ここに矛盾があるのは確かですが、1人当たりの診察時間を5分から10分にして患者が半減してもやっていける報酬はもらっているはずです。逆に、稼ごうと思ったら数をこなして投薬になる。

──治さずに薬漬けにしたほうが儲かる構造ですね。

ほとんどの精神科医は治したいと思っている。ただ、検査や手術という方法がなく、あるのは薬だけ。また、医療の質を問う場合、どれだけ治したかという評価基準が必要ですが、精神疾患は何をもって治ったとするかが難しい。うつ病だと社会復帰でしょうが、会社に行ったらまた症状が出たという例は身近にあると思います。

──製薬会社による「うつは心の風邪」といううつ病の啓発活動が安易な受診を助長すると批判されたことがありました。

あのフレーズは、今思うとある意味正しかったという気がします。風邪の発熱などが体を休ませるための指令なら、脳の活動の低下も同じように疲弊した体を休ませるための指令かもしれない。

問題は、心の風邪や、それ以前のちょっと疲れていて眠れば回復するような人まで病気と診断して投薬してしまうことです。本当に必要な休息を取らないで薬だけ飲んでも治りません。その結果、「よくなりませんね、重症ですね」と薬が増え、副作用で患者が本来できることもできなくなってしまう。副作用に鈍感な医者はとことん鈍感で、症状の悪化と投薬の関係を疑ったりしません。

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