天才たちのすごみに脱帽 ジャズマン・原信夫氏②

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はら・のぶお ジャズマン。1926年富山県生まれ。海軍軍楽隊で音楽を学ぶ。戦後プロになり51年に原信夫とシャープス&フラッツを結成。リーダー、テナーサックス奏者だけでなく作曲家としても活躍してきた。

僕ほど、超一流のミュージシャンや歌手と共演をしてきた演奏家はいないはずです。ナット・キング・コール、イブ・モンタン、ペリー・コモ、ダイアナ・ロス、クインシー・ジョーンズなどなど、数えればきりがありません。

 日本でもたくさんの歌手と一緒にやりましたが、とりわけ江利チエミと美空ひばりとは、かかわりが深かったですね。ひばりが歌ってヒットした『真赤な太陽』は、僕の作曲です。

チエミはもちろん才能がありましたが本当の努力家でした。最初に会ったのは彼女が15か16のとき。楽屋でも78回転のレコードを白くすり切れるくらい聞いていました。僕は楽屋で休憩したいのに、「ここ、聞いて、ここ、聞いて」と追いかけてくる。人の曲でもマスターしたい部分を何度も何度も聞いてました。こっちが嫌になるくらいの努力ぶりでした。しかもそれだけでない。チエミが偉いのは、お客をそらさないことです。舞台に出ると積極的にお客に声をかけ、楽しませる。盛り上げる才能は、そりゃすばらしかった。

芸術の分野では、英才教育が必要

一方のひばりは、舞台で愛想がいいわけじゃないけど、圧倒的な“芸の力”がありました。彼女が舞台に出てくると、お客さんは彼女の世界に一気に引き込まれてしまう。後ろで演奏している僕らにも電波が伝わってくる感じでした。それに絶対に手を抜かなかった。大体、歌手というのは、練習のときは手を抜くんです。いい意味で手の抜き方を知っているともいえる。

ところが彼女はリハーサルから全力で、しかも完璧でした。「もう1回やって」ということがなかった。逆にこっちがもう1回お願いするくらいでした。練習するところを見たことはないけれど、あれだけ完璧にできるというのは、たぶん練習してたんでしょうね。

ナット・キング・コールも、ものすごいカリスマ性がありました。彼がマイクを持ってすっと出てくると、それだけで舞台がすべて彼のものになる。彼の舞台から学んだのは、お客さんが楽しんで聞いてくれて初めて音楽になるということです。独り善がりの演奏ではダメです。

僕が共演してきた超一流の音楽家は、本当に何かを持っています。こうした天才たちを見ていると、その多くが小さい頃から英才教育を受けています。

そう考えると少なくとも音楽などの芸術の分野では、英才教育が必要かなと思いますね。若いときから徹底的にたたき込むことが、必要かもしれません。

週刊東洋経済編集部
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