「保育園」がこんなにも建てられない根本理由 無理筋な条例や法令がいっぱい
また、横浜市では建物の検査済証がない建物は受け付けないが、既存建物の検査済証取得率は非常に低く、1989年では10%以下、1998年でも38%ほど。取得していない物件でも建築士や建築確認機関による調査など、それに代わる手立てはあるが、それは認められていない。
見積書段階で一般の保育関係者には越えにくいハードルを課する例もある。神奈川県では補助金申請にあたり、国土交通省が発注する公共事業同様の見積もりが必要である。規模にかかわらず、工事業者3社から相見積もりを取り、各社それぞれに異なる書式を統一して比較できるようにして提出する必要があるが、新国立競技場と60㎡の保育園に求められる書式が同じという負担感、おわかりいただけるだろうか。
保育園建設のスケジュールは厳しい
しかも、工程ごとにかかる工賃は認めないとしている。1つの建物の建設・改修には大工、電気、塗装、給排水などさまざまな職人が関わり、それぞれに工賃が発生する。一般的な見積もりでは個別の作業ごとに材料費や工賃などが提示されるが、公共事業の場合にはすべての材料費を積み上げたうえで最後に工賃を載せたものが求められる。建築の専門家であっても難しい作業を畑違いの事業者にこなせるはずはない。
もちろん、こうした見積書を要求する窓口に悪意はない。国の公共事業のやり方と同じなら間違いはないだろうという考えなのだろう。だが、作る側からすると難題だ。
しかも行政の補助金を利用する保育園建設はスケジュールそのものからして難しい。新年度の4月1日オープンを前提として、前年の2~3月くらいに事業者の募集が始まるのだが、その時期になるまで行政が保育施設の整備を重点的に進めようとしている地域、つまり補助金が受けられる地域がわからない。
条件に合う物件が少ないからと早めに物件探しを進めようと思っても、探した地域に次年度、補助金が出ないとしたら事業計画が振り出しに戻ってしまう可能性がある。そのため、募集の始まる2~3月から申請し、内定を受ける4月までの短期間で、限定された地域で厳しい条件に合致する物件を探さざるをえないのだ。
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