「#MeToo」を一時の流行にしない社会はつくれる 国外の状況を知り被害者を守る制度整備を

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荻上:「自分は安全に暮らしているのに、被害に遭っている人がいる。それはその人の自業自得だ」と考えてしまう。世の中が因果応報のメカニズムで成り立っているとして、心理的安定をもたらす「公正世界仮説」というバイアスです。自分の心理的安定のために、被害者をバッシングする人が多くいます。だから被害者の方も、口をつぐんで苦しまざるをえなかった。

荻上チキ(おぎうえ ちき)/評論家、TBSラジオ「荻上チキ Session-22」メインパーソナリティ。著書に『ウェブ炎上』(ちくま新書)、『災害支援手帖』(木楽舎)、『彼女たちの売春(ワリキリ)』(新潮文庫)、『いじめを生む教室』(PHP新書)ほか、共著に『夜の経済学』(扶桑社)、『ブラック校則』(東洋館出版社)ほか

でも、それは適切ではありません。被害を受けた方が取りうる行動といった性暴力の問題に関する知識を知ることは、現実に起こっている問題や苦しみを理解するために重要です。

伊藤:実際、『Black Box』の刊行後、ある女性の方からご批判がありました。「自分は厳しく育てられて、注意して生活したから何もなかった、あなたの身に起きたことは因果応報」「同じ女性として恥ずかしい」といった内容が、とても丁寧な言葉で書かれていたのです。いろいろな反響をいただきましたが、どんな暴力的な言葉よりもショックでした。

安田:「気を付けていれば被害には遭わない」という前提ですよね。ですが、どんなに気を配っていても被害者になる可能性があるんです。

被害者の落ち度を問う性暴力

伊藤:少し時間をおいて、心が落ち着いてから感想のお礼とともに「あなたがそのように考えた理由を教えてほしいので、対話したい」と連絡しましたが、お返事はありませんでした。今でも、こういった言葉にどう応えればいいのか考えてしまいます。

荻上:よく使われる喩えですが、強盗被害に遭った男性に対して、警察官が「高そうな服を着ているから強盗に遭うんだ」「店で支払いをしたでしょ? 財布を見せるのが悪い」と、事情聴取で言うことは普通ありません。ですがこれは、性暴力を受けた女性に「隙があったんじゃないの?」と言っているに等しい。性暴力に関しては、被害者の落ち度を問おうとするんです。

ナディアさんやムクウェゲさんの今後の活動や#MeToo運動の広がりを受け、2019年の性暴力に対する動きはより大きなものになっていきそうです。その意味で、今取り組んでいるのが「WeToo」運動でのハラスメント調査です。WeToo運動とは、当事者だけでなくその周囲の人々も一緒になって、問題を可視化していくプロジェクトで、調査結果を記者会見で発表しました。

その中では、「何をもって性行為に合意したと見なすのか」のアンケート調査を行っています。例えば「2人で食事に行った」「2人でお酒を飲んだ」「キスをした」という中で、どこからが合意になるのか、というものです。

私の考えでは、いずれも、それをもって合意と判断すべきではありません。「飲みに行ったのだから合意した」と思うのは危険ですし、「お酒に誘って断らなかったから、そうみなされてもしょうがない」と考えるのはおかしい。

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