結婚8年、38歳で別れた女が受けた壮絶な暴挙 元夫に話しかけるのも近づくのも禁じられた

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裕子さんは、自分はどうなってしまったんだろうと思って、不思議で仕方なかった。

浩二さんに「あなた、私が1メートル以内に近づかなかったらうれしいの?」と尋ねると「あぁ、うれしいわ。ぜひそうしてくれ。そばに寄らんといてくれ」と言われた。夫と口もきけないし、そばにも寄ることもできない。そのため、廊下ですれ違うときは、壁を這うようにして離れた。裕子さんはそんな浩二さんの理不尽な命令を着実に守り続けた。

しかし、精神的な限界を感じて、「こんな生活が本当にいいの?」と尋ねると、「めちゃくちゃ、快適やったわ」と、浩二さんはにこやかな笑顔を見せた。それは約3年ぶりに見た夫の笑顔だった。

ついに「奴隷」と呼ばれ

「私ってこんなに嫌がられてるんだ」と思った瞬間に、裕子さんの中で何かが壊れた。ソファに横になって動けなくなり、家事も手がつかなくなった。

「お前のそばにいると空気が薄くなる」

「お前が奴隷になってくれへんかったら、俺、王様になられへんやないか」

浩二さんは何度も、『奴隷』という言葉を口にした。

「待って! 私ら夫婦やんか。なんで王様と奴隷なわけ? 私、奴隷になるために結婚したわけじゃない」

裕子さんが反論すると、「奥さんが奴隷でいてくれへんかったら、俺は王様でいられへん。王様でおられへんかったら、外で辛いことがあっても乗り越えられへん」

と怒鳴り散らした。浩二さんにとっては奴隷だから、王様の言うことを聞くのが当然で、ルールを守るのも当然という態度だった。

「『給仕せえ、給仕せえ』ってウエイターみたいにこき使われるんです。そのうち、『お前に話しかけるのが、もったいないから、こうやって手で合図したらお茶。これはスプーン。これはフォーク』ってその都度、合図をするようになってきた。

『なんでお茶ちょうだいって言えへんの? お茶っていったほうが早いんじゃない?』と尋ねたら『お前に話しかける労力がもったいない』と返ってくるんです。でもそれで機嫌がいいなら、いいやと思っていました。怒鳴られても、疲れて、ストレスたまってんだなと解釈していたんです。今思うと自分が傷つきたくないという一心で元夫に従っていたんですよ」

当時、少しだけふくよかになっていた裕子さんを、浩二さんはよく「デブ」「お前のそばに行ったら空気が薄くなる」「道が狭くなるから通られへん」とののしった。少しでも言い返すと、「俺が黒いというたら白いものでも黒いんじゃ! 夫婦とはそういうもんじゃー!」と怒鳴るので、次第に反論する気も失われていった。

「俺はマヨネーズがないと暴れるからな」

「俺はマヨラーや。マヨネーズが切れたら俺は暴れるぞ」

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