結婚してからしばらくして妊娠が判明、当時は共働きだったが、流産する恐れがあったため、裕子さんはそのまま職場を退職することになった。
元夫のモラハラが徐々にエスカレートしていったのは、結婚して約5年が経った頃だった。長男、長女に恵まれ、子どもたちが4歳と2歳になり子育てに追われ始めた時期だ。それまでは元夫から無視されることなどは日常茶飯事だったが、その頃から、浩二さんは裕子さんに禁止事項を作るようになった。
外出禁止、携帯電話の禁止、外食の禁止、実家に帰省を禁止、友達との面会禁止……。さらに、浩二さんに話しかけるのも、夫の1メートル以内に入るのも禁止という。接見禁止ならぬ、接近禁止命令が出たのだ。
さすがに、ご飯を食べているときぐらいは話しかけてもいいだろうと思って「あのね、今日さぁ」と浩二さんに話そうとすると、目の前を手で遮ってくる。
「なに?」と聞くと、「食事中の会話禁止。今日から禁止だから。せっかく帰ってこれからメシってときなのに、お前に話しかけられると飯の味わからんやんけ」と言い放った。
理不尽な元夫に従い続けた結果、PTSDに
「今思うと信じられないんですが、『それもそうかも』と、自分を納得させちゃうんです。なぜだか、そういうネガティブな思考になる。新聞を読んでいるときだったらいいかなと話しかけたら『新聞の意味がわからなくなるやんけ』と。ゲームしているときは、『俺今、ゲーム集中してやってるんや。これがストレスの解消法なんや。話しかけてくんな』とコントローラーを投げつけられました」
「ゲームぐらいでそんなキレなくていいやん」と戸惑っていると、
「ゲームぐらいってなんや。これがあるから明日の仕事できて、お前も食えていけるんや! お前、俺の代わりに仕事してきてくれるんか! 明日から仕事してこい! お前やったら俺より稼いでくるやろ。明日から俺仕事やめたるわ!」と怒鳴り始めた。
そう言われると、裕子さんは言葉に詰まってしまう。
「私、子どもおるからできへん。そこまで言うんやったら、しゃべらんわ」と裕子さんが最終的には折れるしかなくなるのだ。
浩二さんが唯一許してくれたのは煙草を吸っているときだけだった。それでも、突然、煙を消されて「以上!」と話を中断されてしまう。
接近禁止命令が出たときは、裕子さんの体にPTSD(心的外傷後ストレス障害)の症状が出始めていた。
「元夫がそばにいると、震えが止まらなくて体がしびれるんです。元夫が帰ってくる時間が近づくと、心臓がドキドキ高鳴って止まりそうになる。土日は胃薬をつねに飲んでいて、飲まないと食べ物を戻してしまうようになってしまいました」
裕子さんは、かつて不動産の営業職として、バリバリ働いてきた。仕事においては、つらいこともあったが、そんな中でも輝かしい営業成績を上げてきたし、他人に比べて精神的に強いほうだと思っていた。
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