結婚8年、38歳で別れた女が受けた壮絶な暴挙 元夫に話しかけるのも近づくのも禁じられた

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浩二さんは、裕子さんにつねにそう言っていた。浩二さんはどんなものにでもマヨネーズをかけて食べるのが楽しみだった。ある日、浩二さんが23時に帰ってきた瞬間にふと、マヨネーズの買い置きがないのを思い出した。いつもは2個ストックがあるのにその時に限ってなぜだか、忘れてしまっていたのだ。

「マヨネーズ忘れた!大変や」と、裕子さんは怖くて仕方がなくなり、「買い忘れたものがあるから」と泣きながら家を飛び出した。

「家の近くのスーパーはシャッターが下りていたんですが、ドンドンと叩いて開けてもらおうかと思ったんです。走ってるうちにふと、『私、いったい何やってるんやろ』と我に返ったんです。結局コンビニで済ませましたが、当時は、そのくらい追い詰められていたんですよね。普通の家庭なら『今日、マヨネーズないねん、ごめんね』で済む話なのに、なぜ自分がこんな目に遭わなきゃいけないのか、そう思うと悲しくて仕方なくなりました」

DV電話相談室へのSOS

自分は、家具や壁の絵なのではないか。

裕子さんは家にいると、自分は、壁に掛かった絵なのではないかと思うようになっていった。浩二さんはまったく自分を見ようとしないし、声をかけても返事してくれない。そのため、「私って家具とか、絵なんちゃう?」という錯覚を覚え始める。

そのうち、ベッドの中で、手が触れたり背中に当たったりしたら、「集中して寝られへんやんか!」とすごい剣幕で怒鳴られて、足で蹴られるようになった。

「気が散るから、そっちの端っこで寝といてくれんか! お前が触れただけで俺の睡眠時間がなんぼ減ったと思ってるねん」と大声でまくし立てられるので、就寝中でも、つねにビクビクして、ベッドの端で寝ていた。友達に相談しても、『長いこと夫婦やってたらそうなるよ』『いつまでもラブラブな夫婦なんておれへん』と言われるだけで、自分がわがままなんじゃないかと思うようになる。

思いつめた裕子さんは、ある日、DVの電話相談室に電話することにした。すべてを話すと相談員は、「あなたはライオンの檻の中で暮らしているようなものです。今すぐそこから離れたほうがいい」とアドバイスをくれた。

「その時に思ったのは、『えっ、離れていいの?』ということでした。元夫と離れるなんてありえないと思っていたから。結婚して、嫁になったという気持ちも強かったし、元夫の両親の面倒もずっと看ていくつもりで長い将来も想像していたんです。だから、離れるなんて想像できなかったんですよ。それでも、離婚したのはやはり自分の人生は自分で作っていくものだと思ったからなんです」

浩二さんのモラハラは、父親が母親を奴隷のようにこきつかっていた家庭環境に起因しているのかもしれない。裕子さんは、電話相談によって気づきを得て、別居を決意。離婚調停へともつれ込んだ。その後、離婚が成立し2人の子どもを引き取り現在は、別の男性と再婚して、幸せに暮らしてくる。

裕子さんが言いたいのは、夫がモラハラかどうか判断に迷うときは、自分が夫と暮らして辛いと感じるかという気持ちを大切にして次のステップに進んでほしいということだ。

菅野 久美子 ノンフィクション作家

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かんの・くみこ / Kumiko Kanno

1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経て、2005年よりフリーライターに。単著に『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)、『孤独死大国』(双葉社)、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)『家族遺棄社会 孤立、無縁、放置の果てに。』(KADOKAWA)など。

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