しかし、世の中の人々全員が株を喜んで買ってしまえば、「そういう状態」は実現しない。株は人気で割安どころか、割高な可能性がある。そうなると当然リターンは得られない。したがって、株式ブームが起きるということは、株式では儲からなくなるようになるということだ。
「バブル後半」と「バブル前半」の違い
これは、バブル後半から崩壊にかけては明らかだ。バブルとなった資産は人気が出すぎて、リスクがある資産が割安になるわけではない。むしろ割高だ。2008年のリーマンショック前のバブルを、私は「リスクテイクバブル」と呼んだが、リスクをとることが流行してしまい、リスクが過剰人気して、リスクをとる機会をみなで奪い合ったのだ。そして、そのリスクが実現して、悪いシナリオが顕在化すると、みながリスクから逃げ出し、大暴落となったのだ。
一方、バブル前半では何が起こるか。リスクに人が群がる。つまり、リスク資産の価格が上昇する。その結果、リスク資産を買うと儲かるという状態が実現するのだ。しかし、これは人々が嫌がるリスクを引き受けた報酬ではない。人々の熱狂に乗った報酬である。教科書に載っている、株式投資が儲かる理由とは、正反対の現象である。
本来であれば、あるいは教科書どおりであれば、経験豊富な株式投資家、機関投資家は、個人が株式市場に参入することを好まないはずである。なぜなら、個人がリスクを嫌がるからこそ、リスクの報酬が大きくなり、リターンが高くなるからである。個人もリスクをとるようになれば、リスクの奪い合いが起こって、リターンが得られなくなる。
リターン、儲けの「もうひとつのメカニズム」
しかし、それでもアベノミクスによる個人の株式投資参加や公的年金などの株式投資増加を既存の投資家たちが望むのは、リターン、儲けのもうひとつのメカニズムに期待しているからである。それは最も単純なもので、「人気が出るものは値上がりする」ということである。買う人が増えるのであるから、需給で言えば価格は上昇するはずである。つまり、株の人気が出れば株価は上がる。すでに投資している人たちはそこで売れば儲かる。だから、新しい投資家の参入を歓迎するのである。
単純すぎる、当たり前のことだから教科書に載っていないのではない。このメカニズムは単純だが、これまでの理論体系には当てはまらないから、ファイナンスの教科書の体系から漏れているのだ。
この儲けはリスクの報酬ではない。中古品の売買と同じで、誰かが儲かるということは、、誰かが高いお金を払わされていることになる。その中古品を愛していれば、入手してうれしいのだが、株式が買えてうれしい人はいない。儲かって初めてうれしいのだ。それを求めて投資しているのだ。
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