AIが雇用にどのような影響を与えるかについては、このようにAパターン、Bパターンの2つのケースが考えられますので、すべての産業・業態が悪い影響を受けるわけではないという点に留意する必要があります。
中原:おっしゃるとおりだと思います。コールセンターでは人だけが対応する、AIだけが対応する、人とAIが組んで対応する、という3つのパターンで顧客満足度を調べた場合、人とAIが組んで対応するパターンが群を抜いて高いことがわかっています。それは、顧客を待たせることなく人が対応できるからです。コールセンターの業務ではAのシナリオがぴったりと当てはまっていて、人とAIが協業してよりよい結果が出せるパターンということですよね。
「失われる雇用」よりも、「新しい仕事」を生み出せるか
やはり問題は雇用のほとんどが失われるBのシナリオであって、そのシナリオをたどる領域が次第に広がっていく懸念が高まっているように思われます。例えば、AIには人間性がないと常識のようにいわれていますが、心理カウンセラーといった人の心に関わる仕事でも人を凌駕する結果を残し始めています。人間のカウンセラーは相手の微妙な表情を読み取れないことが多いのに対して、AIは微妙な表情から相手の深層心理を読み解き、正確なアドバイスができる段階にまで来ているといいます。
あるいは、AIには手の感触がないとこれも常識としていわれていますが、実際に手の感触を持っているAIロボティクスが日本で開発され、進化の過程に入ってきています。将来的には、洋服のボタンを閉めたり外したりすることができるAIロボティクスが誕生しているかもしれません。
確かに、AIは人間の経験に基づく常識がないという弱点をまだ克服できてはいませんが、シリコンバレーではディープラーニング型のAIから、さらに進化したAIを開発しようという試みが始まっているというので、人間の独創性や共感力をカバーできるAIが生まれる可能性も否定はできません。いろいろな話を聞いていると、人間独自の強みを発揮すればいいと楽観していられる状況ではないなと思っています。
AIが広く普及した社会になれば、新しく生み出される仕事も多いといわれていますが、18世紀の産業革命や20世紀前半の航空機・自動車のイノベーションに比べると、明らかにモノが溢れている21世紀の世界では、本当に失われる雇用より多くの仕事が生み出されるのか心配なところです。そういった意味では、BのパターンよりもAのパターンの仕事をどれだけ生み出せるのか、その点が雇用にとって重要な要素になると思っています。