「熱帯感染症薬」開発で日本が果たすべき役割 退任前にファンドのキーマンが提言

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アフリカなど熱帯地域では、現在もマラリアと戦っている。写真は2018年夏、コンゴ民主共和国(写真:ロイター)
GHITファンド(グローバルヘルス技術振興基金)は、マラリア、結核、NTDs(顧みられない熱帯感染症)の治療薬開発のために2013年4月に始動した産官学共同プロジェクトだ。外務省、厚生労働省、国連開発計画、ゲイツ財団のほか、日本の大手製薬5社(アステラス製薬、第一三共、エーザイ、塩野義製薬、武田薬品工業)が中核となり、日本の資金力、製薬会社の創薬力を生かして国際貢献を目指す。
発展途上国に多いこういった疾病の治療薬開発は、実は大手製薬会社はやりたがらない。医薬品開発には15年以上の長い時間と莫大な資金が必要だが、途上国対象の医薬品は価格を上げられず、投資の回収が見込めないためだ。GHITはこの治療薬開発にかかる費用を助成する。
GHITの事業モデルの企画立案から全体の取りまとめまですべてを担い、ファンド設立後は専務理事・CEO(最高経営責任者)として全体を引っ張ってきたのがB.T.スリングスビー氏だ。医師で医学博士でもある同氏が当時の勤務先であったエーザイの内藤晴夫CEOや、国会議員でもある武見敬三氏などのキーパーソンから、厚労省や外務省まで次々に口説き、まったく新しい仕組みを作り上げてきた。
このGHITの生みの親であるスリングスビー氏が2019年3月末にCEOを退く。ベンチャー創業者が、創業6年で退任するようなもので、医薬品開発のような息の長いプロジェクトではあまりない。せっかく軌道に乗ったGHITの活動に影響はないのか。スリングスビー氏に聞いた。

日本だけ安泰という考えは通用しない

――GHITはNTDsに焦点を当ててきたが、なぜNTDsなのか。

NTDsはWHO(世界保健機関)が「制圧しなければならない熱帯病」として指定している20の熱帯感染症で、世界人口70数億人のうち10億人以上が罹患しているといわれている。リンパ性フィラリア、アフリカ眠り病、一時、日本でも騒ぎとなったデング熱などが含まれる。日本では制圧された狂犬病も、アジアなどではまだまだ感染リスクが高い。こういった疾患の治療薬を開発して必要な人々に届けることは、豊かな先進国の果たすべき役割だ。

また、グローバル化が進む中で、自国だけは安泰であるという考え方は通用しなくなっている。

――これまでの成果をどうみているか。

2017年6月に2億ドルの調達に成功し、現時点で総額140億円超を助成している。助成案件77件のうち8件が治験に入り、数年のうちに具体的な成果が出るところまできた。

治験中の8件は、マラリア3件、結核が2件、NTDs3件。このうちNTDsの1つ住血吸虫治療薬(アステラス、メルク、スイス熱帯公衆衛生研究所などが共同開発)は治験3相に入る。富士フイルムとFIND(スイスの非営利機関)が共同開発している結核の迅速診断キットは、CEマーク(EUの製品基準適合マーク)取得へ準備を進めている。

ファウンダーがいなくても、組織として持続性のある体制を作り上げることができるようになっていると思う。私自身の任期は2019年3月までだが、今、理事会で選定中の次のCEOが慣れるまでは見届けるつもりだ。

2018年6月にはファウンダーの1人、黒川清先生(東京大学名誉教授)が理事会長を退任されたが、元WHO事務局長補として熱帯病対策に取り組んでこられた中谷比呂樹先生を新会長に迎え、スムーズに移行できた。次期CEOもGHITの理念に深く共感し、日本の文化に対する理解とグローバルな視点のどちらも備えている人でなければならない。

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