「熱帯感染症薬」開発で日本が果たすべき役割 退任前にファンドのキーマンが提言

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GHITは、理事会、評議会、マネジメントチームからなり、さらにパートナー(共同出資者)である製薬企業や他業種からなるスポンサーもいる。これらを上手く連携させる必要がある。ただ、すでに5年という時間をかけて同じ理念を共有しているから、心配はしていない。マネジメントも若いチームだったが1人ひとりが成長し、「チェンジ」が起きたときにきちんと対応できるロバストネス(強靱さ)がある。

――今後の大きなチェンジとは?

これからの大きなチェンジは、まずリーダーシップの変更になる。これはGHITが安定した状態にある今だからできる。新しい5年計画(2期目)が戦略、ポートフォリオと併せて順調に進んでおり、大きな調達が昨年終了し次の調達まで3年の余裕がある。今がベストなタイミングだ。

もう1つのチェンジはプロダクトが出てくること。第2期5年計画の中で、1~2件の承認申請を出すことを目標としている。さらに、新しいイノベーションを起こすこと。新しいCEOになれば、私が持っていなかったアイデアが出てくるかもしれない。そういったこともチェンジの1つになるだろう。

大手製薬の研究者は「協同」したがっている

――GHITのプロジェクトは、大手とベンチャー、日本と海外の組み合わせを促すという点に特徴がある。

GHITの楽しいところは、グローバルなエクスターナルR&D(外部とのR&D、オープンイノベーション)がどんどん進むこと。最近、新薬として承認されたものを調べると、半分以上がバイオテック(先端的技術を持ったバイオベンチャー)がオリジネーター。バイオテックの持つ新しい技術と製薬企業の持つノウハウを、官民共同の資金で支援する。GHITはこの理想形を実現したと考えている。

GHITの生みの親であるスリングスビー氏は、長期的なパートナーシップの重要性を強調する(写真:GHIT)

引き続き日本のイノベーションを生かしたエクスターナルR&Dを進めてほしい。企業やバイオテック、企業からのスピンオフ、JV、大学、日本とグローバルなど、さまざまなエンティティの触媒となることを期待する。

エクスターナルR&Dはもっと日本でも浸透すべきだ。GHITの活動の中でも、大手製薬の研究者自身は外部との協同が好きだと感じる。資金さえあればいろいろなことができるのではないか。製薬会社にとってもいろいろなチェンジが可能になる。

ただ、日本にはベンチャーキャピタルが少ないし、バイオテックを1から起業し成功にまで導いた経験者が少ない。北米にはケンブリッジ、サンディエゴ、トロントと、いろいろなところに数百人規模でそういう人がいる。日本にも優秀なベンチャー起業家は何人かいるが、まだまだ少ない。これから増えてくると期待したい。

――日本のベンチャーが大手に持って行くと、まずPOC(プルーフ・オブ・コンセプト、有用性の実証)をとってきて、と言われることが多いと聞く。

開発初期の医薬品候補を見極めるには、大手製薬の側の目利きも重要だ。

GHITでは体系的に目利きをやってきた。助成を受けるための申請書のフォーマットが網羅的かつ包括的なデータが整っていないとまず受け付けない。プログラムの選定には外部の新薬開発エキスパート3人以上に協力してもらう。そこを通過すると11人からなる選考委員が多面的包括的にレビューする。

たとえば前臨床の評価では生物学、化学、毒性、代謝などの専門家がさまざまに評価し、低価格で製造できるか、フィールドで使いやすいものになるか、といった観点からのチェックもする。書類審査だけでなく面接し議論もする。それを通過すると次は理事会でポートフォリオの観点からチェックする。経営陣にバイオテック育成の経験者がいるかどうかも重要だ。

エクスターナルR&Dプロジェクトに関わることで、経営者も研究者もマインドセットが変わってくる。社外のプロジェクトメンバーとグローバルに開発するという経験を積んで、より積極的にグローバルヘルスに関わるようになる。

新薬開発は一朝一夕にはできない。京都の銀行のCMに「なが~いおつきあい」というのがあるが、GHITも無理なくなが~くをモットーにしてほしいと思っている。

小長 洋子 東洋経済 記者

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こなが ようこ / Yoko Konaga

バイオベンチャー・製薬担当。再生医療、受動喫煙問題にも関心。「バイオベンチャー列伝」シリーズ(週刊東洋経済eビジネス新書No.112、139、171、212)執筆。

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