「歯周病」を軽視する大人が抱える重大リスク 簡単にできる「舌まわし」が予防に有効だ

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では、このアミロイドβを生み出す原因の1つはいったい何なのかというと、それが"歯周病"です。

歯周病を引き起こす歯周病菌が出す毒素によって歯肉などに炎症が起きると、血液中に炎症物質「サイトカイン」が流れ込みます。このサイトカインが血液に運ばれて脳に流れ込むと、アミロイドβが脳の中で増えるのです。つまり、歯周病になると、脳にゴミがたまって、アルツハイマー型認知症の発症・悪化リスクが高まるというわけなのです。

さまざまな病気のリスクを高める歯周病

悪化リスクがどれくらい高まるのかを調べた研究があります。名古屋市立大学大学院の道川誠教授らが行ったマウスを使った実験によると、アルツハイマー病のマウスと、アルツハイマー病でさらに歯周病菌に感染させたマウスを比べた結果、約4カ月後には、歯周病菌に感染させたマウスの海馬に沈着したアミロイドβは、なんと面積で約2.5倍、量で約1.5倍に増えていたそうです。

また、アメリカ・フロリダ大学のLakshmyya Kesavalu(ラクシュミヤ・クサヴァル)氏などの研究グループが、アルツハイマー型認知症で亡くなった人の脳を調べたところ、歯周病の原因菌のリーダー格であるプロフィロモナス・ジンジバリス菌が出す毒素、リポポリサッカライド(LPS)が高頻度で検出されました。一方、アルツハイマー型認知症を発症していない人の脳からは、LPSは検出されていません。歯周病がアルツハイマー型認知症に影響を及ぼしていることがはっきりとわかったのです。

このアミロイドβが脳内にたまって認知症を発症するまでには、25年ほどかかると言われています。

厚生労働省の歯科疾患実態調査では、歯周病を発症する人の年齢のピークは45~54歳とされているのですが、ここに25年を足すと、アルツハイマー型認知症患者が急増する70代という年齢層とぴったり重なるのです。このことからも、歯周病とアルツハイマー病の関わりが推測されます。

歯周病というのは、歯周病菌の感染によって引き起こされる、口の中の炎症性疾患です。この歯周病は、日本人の大人のほとんどが患っている、いわば国民病。その発症率は35歳前後から上がっていき、進行に差はありますが40代になる頃には、なんと8割もの人が歯周病を発症します。

この歯周病菌はアルツハイマー型認知症だけでなく、たくさんの病気の発症や悪化に関わっていると考えられています。主な病気は次のようなものです。

・血管性認知症
・誤嚥性肺炎
・糖尿病
・動脈硬化
・脳梗塞
・心筋梗塞
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