「個室」をあえて作らない家に住むという選択 住まいに導入が進む新「脱LDK」とは一体何か

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そもそもLDK、なかでもリビングは家族の憩いとリラックス空間である。ただ、従来のリビングはソファーに家族が集まる傾向にあり、そこ以外に家族の居場所がないケースも多い。夫がソファーに寝転がっていると、妻はダイニングテーブルに追いやられる、という感じだ。

そこで、テラスの第2リビング、リビングを床から一段下げた段差を設けたり、タタミスペースを隣接させたりするなど、LDKの中にいくつもの家族の居場所を作るという設計も積極的に行われるようになってきた。

こうすると、家族がLDKに集まりながらも、それぞれが好きなことをしながら過ごせるようになる。たとえば、家事や趣味に興じる親と、宿題をする子どもが適度な距離を保ちながら一緒にLDKにいるというイメージだ。

リノベーションもしやすい

ちなみに、家族がLDKに集まって過ごすことで、エネルギーの消費量を減少させることができるという調査結果もある。各個室で電気を使わないからだ。このように、LDKのあり方をよく検討することで、さまざまな副次的メリットが期待できる。

間仕切りの少ないLDKは、将来的なリノベーションに対応しやすいというメリットもある。たとえば、介護が必要になった場合、間仕切りを設け介護スペースにすれば、介護する側の負担も減りよりよいだろう。

このほかにも、近年はLDKの周辺部、たとえば浴室や収納、玄関などを含めた動線を短く、使い勝手を良くする設計事例も増えてきた。これらは、共働き・子育て世帯にとって家事時間を短縮できるからだ。

共働き・子育て世帯の暮らしは慌ただしい。この世帯の増加というライフスタイルの変化が今、リビングのありようを変える大きな原動力になっていると考えられる。

ところで、年末年始は家族や親族が集まる時期である。住宅の購入・建築、あるいはリノベーションを検討する機会が増える時期と言われている。ましてや、2019年10月の消費増税を控え、その機運が一層高まるだろう。

その際に、今回ご紹介した例を頭に入れておけば、よりよい住まいの獲得につながるのではないか。というのも、住まいはLDKのあり方次第で居心地の良さ、満足度が大きく変わる。そして、その質は住宅事業者の提案力、設計者の力量で変わる可能性がある。仮に同じ予算であっても、LDKを含む設計いかんで、家族の満足度は短期的にも長期的にも変わるものなのだ。

ただ、モデルハウスなどで自分たちの家族に適した提案がどのようなスタイルなのかを見つけること、あるいは優れた提案力がある事業者と出会うためには、数多くの事例を見て回るなど、それなりの時間や労力、情報量が必要になってくる。

特に注文住宅での住宅取得を考える方は、消費税8%が据え置きになる期限が2019年3月末までの契約(分譲住宅は2019年9月末までの引き渡し)なので、増税前に購入を考えている人にはあまり時間的な余裕がない。だからこそ、住空間で最も重要度が高い場所の1つであるLDKについて、頭の片隅に入れておいてほしい。

田中 直輝 住生活ジャーナリスト

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たなか なおき / Naoki Tanaka

早稲田大学教育学部を卒業後、海外17カ国を一人旅。その後、約10年間にわたって住宅業界専門紙・住宅産業新聞社で主に大手ハウスメーカーを担当し、取材活動を行う。現在は、「住生活ジャーナリスト」として戸建てをはじめ、不動産業界も含め広く住宅の世界を探求。

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