塩と砂糖を見分けられない人の固すぎる思考 「知識」は時にあなたの足かせになる

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たとえば、シャープ創業者の早川徳次の経歴を見ると、学校で知識を詰め込まなかったことで、独創性を発揮できた人物であることがわかる。幼い頃に養子に出された早川は、小学校をわずか2年でやめさせられ、朝から晩まで内職でマッチ箱のラベル貼りをしなくてはならなくなった。その後、8歳で金属加工業者へ奉公に出され、18歳のときに独立・起業を果たす。

初等教育も満足に受けられなかった早川は、知識で思考を肩代わりするのではなく、はじめから自分の頭で考えた。開業後は次々と発明品を生み出し、そこで生まれたのがシャープペンシルだった。

当時、早川式繰出鉛筆と名付けられたこの商品は、国内ではなかなか売れなかったが、第一次世界大戦によるヨーロッパでの品薄がきっかけで大量注文が舞い込み、欧米の市場で引っ張りだこになった。

もし早川が学校で高等教育を受けていたなら、どうなっただろうか。シャープペンシルを販売する企業くらいはつくれたかもしれないが、発明はできなかっただろう。知識偏重の教育に足をすくわれなかったからこそ、早川は独創的で面白い人生を歩めたのである。

ホンダの本田宗一郎も、小学校を卒業後、東京・本郷湯島のアート商会(自動車修理業)の丁稚(でっち)小僧になった経歴の持ち主で、高等教育を受けたわけではない。日本を代表する成果を残した技術者・経営者の生きざまを見ても、知識は必ずしも力ではないということがよくわかる。

この数十年で高学歴化は一気に進んだが、それと反比例するようにして行動力は下がっているのではないか。若い人を見ていて、そう感じることがよくある。イマジネーションが足りないと、仕事をするにも作業効率が悪くなる。いちいち過去の知識、前例を参照しようとするからだ。

知識は時に「足かせ」になる

こんな話もある。筑波大学が、まだ東京教育大学という名称だった頃の話だ。付属小学校の入学試験は全国でも指折りの難しさだといわれていた。競争率が10倍、20倍は当たり前だったため、各地の塾では試験対策が練られ、学校側も塾の予想を裏切る試験問題作りに熱心に取り組んだ。その結果、入学希望者たちの知識ではなく、自ら思考する力を問う、素晴らしい設問が生まれた。

ある年、緊張の面持ちで試験会場に座る子どもの前に1枚の紙が置かれ、その紙の上には、砂状の白い山が2つ作られた。この2つの山は片方が「砂糖」で、もう一方が「塩」である。さて、左右の山のうちどちらが砂糖で、どちらが塩かを答えなさい――それが試験問題だった。受験する子どもたちは大いに戸惑った。通っていた塾では、こんな設問への対策は教えてくれていなかったのだ。

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