塩と砂糖を見分けられない人の固すぎる思考 「知識」は時にあなたの足かせになる

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2つの山を見つめているだけでは、砂糖と塩を判別することはできない。なかには塩よりも砂糖の粒子のほうが粗いという知識を披露した子どももいたようだが、世の中には粒の粗い塩もあるから、この問題の正解としては不十分である。結局、ほとんどの子どもは「わかりません」と答えたらしい。

これは、受験に挑んだほとんどの子どもが、すでに知識という足かせをかけられてしまっていたことを示している。知識だけでは正解にたどり着けない類いの問題を解けないのだ。

この問題の正解を導く方法は単純で、2つの山をそれぞれななめてみればいい。「砂糖は甘く」「塩はしょっぱい」ことさえ知っていれば、誰でも正解を出せる設問だったのである。なんだそんな簡単な話かと怒る人もいるかもしれないが、人間は赤ん坊のときから、すべてのモノをなめて確認している。人間の知恵のもとは、なめることから始まるのだ。なめてみて苦ければ危険と判断するし、逆に味覚が異常を示さなければ飲み込む。

試行錯誤が「思考力」を養う

種明かしをした後だと、とても単純な試験に思えるが、塾で入試対策の知識を詰め込まれた子どもたちの多くが解けなかったのだろう。この素晴らしい入試問題からわかるのは、「実験」の大切さだ。

一般的な教育では、ベーコン的な観点からまず知識を与え、その次にパスカル的な視点で思考力を育もうとする。ただ、その順番だと、知識が思考の邪魔をしてしまう。砂糖と塩を見分ける試験は、そのことを明らかにした。

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あるべき順序は、まず実験なのである。実験、思考、知識という順に段階を踏んでいくことで、人間は賢くなる。実験を繰り返す精神によって考える力が育まれ、そこからまだ見ぬ新しい知識が生まれる。重要なのは、実験が「失敗」を伴うものであるという点だ。試行錯誤を繰り返すことからこそ、本当の思考力が身についていく。

このあるべき順序は、学校教育の話にとどまらない。実験をやめたら、人生はつまらなくなる。だから人間はいつまでも、ある程度は失敗を恐れずに挑戦を続けられたほうがいい。

知識が思考の邪魔をする。これはやはり真実である。

外山 滋比古 お茶の水女子大学名誉教授

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とやま しげひこ / Shigehiko Toyama

1923(大正12)年愛知県生まれ。英文学者、文学博士、評論家、エッセイスト。東京文理科大学(筑波大学の前身)英文学科卒業後、同大学特別研修生修了。1951(昭和26)年より、雑誌「英語青年」(現・web英語青年)編集長となる。その後、東京教育大学(現、筑波大学)助教授、お茶の水女子大学教授を務め、1989(平成元)年、同大名誉教授。専門の英文学に始まり、思考、日本語論の分野で活躍を続ける。「東大・京大で一番読まれた本」として話題となった『思考の整理学』をはじめ、『「読み」の整理学』『ライフワークの思想』『ちょっとした勉強のコツ』など著書多数。

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