「ないない尽くし」非正規公務員の悲惨な実情 「メンタル不調」に陥ったら、即クビ

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リョウさんに話を聞いたとき、彼がいちばん初めにしたことは、自分がこれまでに執筆した記事が載っている専門誌や冊子などを、テーブルいっぱいに広げたことだった。

男性を対象にした本連載では、自身が手掛けた書籍や論文、作品などの“成果物”を私に見せてくる人が時々いる。「履歴書代わりに」「私のことを知ってもらうために」など、理由はさまざまだが、担当編集者に尋ねたところ、女性の貧困を取材する現場では、そのような場面にはまず出合わないという。

男性はプライドが高い、と言いたいのではない。

かつて理不尽な差別に遭うのは「女性」だった

かつて、非正規公務員として働き、理不尽な差別に遭うのはもっぱら女性だった。それがいつの間にか、公務職場に限らず民間でも非正規雇用で働かざるをえない男性が増えた。個人の努力や能力の問題というより、社会の構造が変わったのだ。

取材で話を聞いた男性の多くが無能ではないことを、私は知っている。彼らが過去の成果物を見せるのは、彼ら自身が、いまだに『男は働いて家族を養うべきだ』といった、ジェンダー規範に呪縛されているからではないか。理想と現実のギャップが大きければ、雇い止めに遭い、貧困に陥ったことへの敗北感は強烈だろう。

この2年間、リョウさんは傷病手当金を期限まで受け取った後、現在は失業保険を受けている。実家暮らしのため、生活は何とかなっているが、失業保険もまもなく受給期限を迎える。その後は、なんとか障害年金を受けられないか、考えているという。

「就職活動もしています。でも、まだ働く自信がないんです」。そう語るリョウさんの表情は乏しく、怒りもなければ、覇気もないように見えた。心は今も、打ち砕かれたままだ。

本連載「ボクらは『貧困強制社会』を生きている」では生活苦でお悩みの男性の方からの情報・相談をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
藤田 和恵 ジャーナリスト

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ふじた かずえ / Kazue Fujita

1970年、東京生まれ。北海道新聞社会部記者を経て2006年よりフリーに。事件、労働、福祉問題を中心に取材活動を行う。著書に『民営化という名の労働破壊』(大月書店)、『ルポ 労働格差とポピュリズム 大阪で起きていること』(岩波ブックレット)ほか。

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