いずれにしても、行政の現場はいまや、「5人に1人が非正規」。規模の小さい町村などでは、「3人に1人が非正規」「半数が非正規」というところもある。
非正規職員が増えた背景には、自治体の財政難がある。2007年には、地方自治体財政健全化法が制定。都道府県や市町村などは、目に見える「成果」を求められるようになり、正規職員を、“安価”な非正規職員へと置き換えるようになった。
自治労(全日本自治団体労働組合)の実態調査によると、非正規職員の7割が年収200万円以下のワーキングプアだという。ボーナスなどがある正規職員の3分の1以下である。低賃金で、いつ雇い止めに遭うかわからない「官製ワーキングプア」を、自治体自らが増やし続けているのだ。
毎月の勤務日数は16日間で、月収は約20万円
話をリョウさんに戻す。リョウさんは私大の大学院を修了。自治体で社会教育や生涯学習に関わる仕事に就きたいという希望はあったが、このころすでに、社会教育指導員の採用はほとんどが非正規だった。一方、当時はリーマンショックの直後で、周囲の友人たちは内定が取れずに苦戦していた。
就職活動に、いたずらに時間と気力を奪われるよりは、非正規雇用でも、やりたい仕事に挑戦してみようと決意。雇い止めにされた自治体とは別の自治体の採用試験を受け、社会教育指導員として働き始めた。
毎月の勤務日数は16日間で、月収は約20万円。フルタイムで働いても、ワーキングプアという典型的な非正規公務員と比べれば、年収はかろうじて200万円を超えた。仕事の面でも、高齢者や若者向け講座の企画、運営に携わるなど、着実にキャリアを重ねることができたという。
数年後、社会教育行政に力を入れているという評判を耳にしていた、別の自治体に転職。リョウさんは「ステップアップのつもりでした」と話す。
ところが、勤続3年を過ぎたころ、ある新規事業の立ち上げを任されることになり、業務が急増した。通常の仕事に加え、新規事業に必要な備品や消耗品のリストアップや、民間事業者との打ち合わせ、職員向けマニュアルの作成など、果ては議会に提出するための資料作りまで命じられた。
転職先の自治体でも、リョウさんの勤務日数は、要綱で「16日以内」と規定されていた。連日で出勤できるとは限らず、正規公務員のように、その日に終わらなかった仕事を翌朝に片づけるといった、やり繰りができない。このため、いったん出勤すると、長時間勤務にならざるをえなかったし、休日のたびに持ち出しても支障がない資料を持ち帰っては、仕事を続けた。帰宅する電車の中でもパソコンを開き、作業に追われたこともあったという。
後になって、こうした残業時間を計算したところ、1カ月で60時間を超えた月もあった。しかし、残業代などの手当は一切、支払われなかったという。
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