フランスのデモがマクロンを標的にするわけ 燃料増税への抵抗運動がSNSで10万人デモに
政権側もこうした改革の実行に痛みを伴うことは重々承知している。改革の成果を国民がいち早く実感するのが成功の鍵と考え、スピード重視で政策を打ってきた。大統領選の直後に行われた国民議会(下院)選挙で、マクロン大統領が旗揚げした新興政党・共和国前進が地滑り的な勝利を収め、議会の60%強の議席を握っている。磐石な議会基盤をテコに野党や抵抗勢力の批判を振り切り、行政命令形式の立法手続き(オルドナンス)を多用することで、迅速な制度改正を実現するのがその手法だ。
マクロン大統領の就任以降、対内直接投資やスタートアップの増加など、改革の萌芽も少なからずみられる。就任時に9.5%だったフランスの失業率は8.9%まで低下した。だが、多くの国民は改革の成果以上に痛みを感じている。企業活力の回復を重視した改革メニューは「富裕層優遇」と非難され、スピード重視の強引な改革手法は「国民の声に耳を傾けない」として批判されている。そこに、エリート色の抜けないマクロン大統領自身に対する「傲慢」との批判や、大統領の警護責任者によるデモ参加者(今回のではない)への暴行疑惑なども加わり、国民の不満に火がついた。
支持率は過去の大統領と比べても急低下
調査会社BVAによれば、大統領の支持率は26%に落ち込み、就任19カ月目としては前任者(フワンソワ・オランド大統領)の48%、前々任者(ニコラ・サルコジ大統領)の29%を下回る。暴動発覚後のHarris Interactiveによる世論調査では、暴力行為に対しては批判的な意見が圧倒的に多いが、回答者の実に72%が黄色いベスト運動を支持している。
そもそもマクロン大統領の誕生は、対立候補の敵失や選挙制度に助けられた面もあり、フランス国民の多くが積極的に同氏を支持した結果ではない。最有力候補とされた共和党のフランソワ・フィヨン元首相が選挙前に発覚したスキャンダルで失速、左右両極の政党候補に反体制派票が分断したことで、マクロン氏は初回投票を制した。
初回投票でのマクロン氏の得票率は24.0%に過ぎず、有権者の半分近くが反EUや反緊縮を掲げる候補に投票した。初回投票の上位2名で争う決選投票で、極右政党・国民戦線(今年6月に国民連合に党名を変更)のマリーヌ・ルペン候補と対峙。極右大統領の誕生を阻止するため、多くの票がマクロン氏支持に流れた。また、共和国前進の圧倒的な勝利に終わった国民議会選挙も、投票率は史上最低にとどまった。今回のデモに参加する人々の多くは、もともとマクロン体制を支持していたわけではないだろう。
任期5年の直接選挙で選ばれるフランスの大統領は強い権限を持ち、よほど明白な義務違反のない限り、罷免されることはない。大統領は国民議会の解散権を持つが、マクロン大統領の共和国前進が議会の安定多数を確保しており、大統領と国民議会の間に対立関係はない。
国民議会は10分の1以上の議員の署名に基づき内閣の問責決議を提出することが可能だが、エドアール・フィリップ首相とその閣僚はマクロン大統領に任命権限があり、議会と首相(内閣)の間にも対立関係はない。マクロン大統領の誕生後、野党勢が党勢回復に苦しんでいることもあり、すぐにマクロン体制が脅かされる状況にはない。
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