伊佐山:メディアなどで報じられる、大きな成功の影には、数多くの失敗と教訓があることが意外に見えていない。昨日、東京大学で学生に向けてイベントした時にも、僕の経歴(東京大学から、日本興銀、スタンフォード大学院、DCM、WiL)を見て「順風満帆で、すごいですね!」と言われたんですが、そんなわけがないと。いろいろな道草も食っているし、いろいろな所に首を突っ込んで失敗して恥もかいてきましたし、ただその失敗はあまり覚えていない(笑)。ある意味鈍感力が必要ですよね。
孫:僕は父に「二十代のうちはできる限り失敗をしろ、金を払ってでも失敗しろ」と言われました。二十代のうちは失敗しても大きな失敗になることもなく、被害もたいしたことにはならない。ただ、一度失敗を経験すれば、さらに大きなリスクをとりにいくとき、「ここまでは大丈夫、ここからはヤバい」という判断が経験として蓄積され野生の勘が育まれる。これが、なにも失敗をせずに四十代を迎えてしまうと、既に事業の規模が大きくなってしまっていて、失敗すると致命的なオオゴトになる。シリコンバレーのエンジェル投資家も言っていますが、「スタートファスト、フェイルファスト」、つまり早くはじめて、早く失敗するのが大事ですよね。
「死なない」ように失敗すること
伊佐山:昨日も象徴的なことがありました。ある学生が「シリコンバレーにいつか行きたいんです。英語やITの知識を身に付けてから行きたいです」と言っていたのですが、「それはいつ揃うの」と。それよりも、今、シリコンバレーに飛んでいってスタンフォード大学の学生とどれだけ差があるのかを実感値として持つことの方が大切なのではないか、と思うのです。今の時代、“失敗”とか“心理的につらい経験”を積み、今の自分はどこまでは「失敗できるのか」を知っている必要がある。
シリコンバレーでは、「フェイルファスト」がよく言われていますが、“死なない”ような失敗をして進化できることが、これからの当たり前の「ビヘイビア(ふるまい)」として必要だと思うんです。
孫:日本人はスマートと言うと、「少ないエネルギーを最大効率化して成果を残す」ことだと思っている人が多い。失敗せず、うまくやることが“かっこいい”と。
しかし、僕が世界で見てきた実際に成功する人は、失敗を恐れないタフな人が多い。彼らは「効率をあげる」ことより、どんな「大きな成功」をおさめられるかのほうが重要だと考えています。サッカーに例えると、悪いときの日本代表のように、相手チームから削られるのを恐れたり、パスカットされるのを恐れて、安全なエリアでパスを回し続けてもゴールには結びつきません。削られるのを承知で、無理を承知でも強引にドリブルしてシュートに持ち込める人がゴールを決める。「誰にも触れられず、きれいにゴールを決める」ことを目指しても、ゴールできなければ意味がない。
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