交通事故の救命作業を速める最新技術の実情 自動分析・通報でドクターヘリも呼べる

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ここで短縮された17分とはD-Call Netの導入前と導入後の比較で、具体的には、事故発生から治療開始までに掛かった時間の短縮分(詳細は図で確認いただきたい)に相当する。導入前は、事故発生から5分後に消防本部が覚知(連絡などを受けて状況を知ること)し、さらにその15分後にドクターヘリの要請が行われていた。それが導入後、事故発生から1分後には消防本部が覚知するとともに、同じく事故発生から3分後にはドクターヘリの要請が行われている。

さらに短い時間での搬送が実現

つまり導入前には、事故発生から5分後に消防覚知、そこから15分後にドクターヘリ要請の合計20分かかっていたものが、導入後は事故発生の情報が消防本部(1分後)とドクターヘリの基地病院(3分後)へと同時に通達されている(導入前は消防覚知が5分だったので、ここで2分短縮)。さらにこの時点(事故発生から3分後)にはドクターヘリへの出動要請が同時になされるため、導入前に掛かっていた消防覚知→ドクターヘリの要請の15分を必要とせず(ここで15分短縮)、合計で17分の短縮となる。

死亡重症確率が高い状況とは命が危険にさらされている状態であるわけで、1分、1秒でも早い治療の開始が救命率を飛躍的に向上させる。D-Call Netではこの17分の試算結果によって年間282人の救命ができると見込んでいる。この282名には事故の対象が乗員ではなく歩行者である場合も含み、うち99名は車両の前席に座っているドライバーと同乗者となる。

D-Call Netシステムを導入したドクターヘリでの訓練の様子(写真:トヨタ自動車)

このように救命率の向上が望めるD-Call Netのシステムだが、肝心のドクターヘリの運営面では課題も多いという。ドクターヘリは事故現場の環境によっては直接、離発着できないケースがある。その場合、事故現場からはまず救急車で患者を離発着可能な場所まで搬送する。このドクターヘリと救急車が合流する場所は「ランデブーポイント」と呼ばれている。

これまでドクターヘリに1100回以上搭乗した経験を持ち、救命救急医療に従事している日本医科大学千葉北総病院の救命救急センター・助教である本村友一医師は、ランデブーポイントで実際に発生した出来事を次のように語る。

日本医科大学千葉北総病院救命救急センター助教 本村友一医師(筆者撮影)

「ヘリコプターは回転するローターに直結したブレードの揚力で飛行するため、離発着時には地面に対して強めの風が吹きつけられます。この風によって、たとえば離発着地点が学校の校庭であった場合、地面の砂が巻き上げられ少なからず周囲にその砂が飛んでいくことがあります。ヘリコプターの構造上、こうした風は避けられないものですが、周囲に住まわれている住民の方々からは巻き上げられた砂により洗濯物が汚れてしまうなどマイナス面があると報告を受けています。しかし、人命救助のために離発着しているヘリコプターですのでぜひともご理解をいただきたいと思います」。

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