交通事故の救命作業を速める最新技術の実情 自動分析・通報でドクターヘリも呼べる

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フジテレビが制作したドラマとしてヒットし、映画にもなった『コード・ブルー』。フィクションとはいえ、この作品をご覧になったことがある読者には、ドクターヘリがどんなものか想像がつくだろう。

実際に使われているドクターヘリの機内(筆者撮影)

ドクターヘリは世界各国で活躍しており、筆者も取材で訪れたドイツ郊外で着陸シーンに遭遇したことがある。確かに強風であったが、周囲にいた人々は着陸を妨げないよう周囲の交通整理を率先して協力して行ったり、倒れそうな鉢植えや店舗の立て看板などをしまい込んだりして、スムースな着陸を支援していた。ドイツの例から察すると、日本におけるドクターヘリに対する周知が進めば、ランデブーポイントでの課題のひとつは克服できるように思う。

本村医師は本格運用をより効果的なものにしていく改善点を次のように言う。

ドクターヘリの機体後部(筆者撮影)

「ランデブーポイントに一刻も早く着陸して病院へと搬送を行えるようになると良いですね。着陸場所によっては安全を確保すために時間を要することがあり、治療開始までの時間を遅らせる要因になっているからです。また、患者の状態を正確に把握するため事故の状況を客観的に記録できる車載センサーの追加を希望します。具体的には車体を上方から見渡せる360度カメラなどの普及がさらに進めば、身体に対して最初にどの方向から衝撃が加わり、その後、どんな状況におかれていたかなどを把握する判断材料になります。その結果、手術や治療の方針がより正確に立てられます」

本村医師は手術や治療の方針策定のため「車内の様子がわかるよう車内向けにもカメラがあるとさらに良い」と語るが、これは自律自動運転技術のレベル3以上で必須とされる、DMS(Driver Monitor System/ドライバーモニターシステム)がその目的を包括できる可能性が高い。レベル3以上でのDMSとは、自動運転から手動運転へ切り替える運転操作の権限委譲が行えるかどうかを車両側で判断するためにドライバーの状態をモニタリングするカメラのことだ。

国内保有車両の多くでD-Call Netを使用できる

そもそもD-Call Netの前身であるHELPNETは、1996年に策定されたITS(Intelligent Transport Systems/高度道路交通システム)の「開発9分野」のひとつに数えられていた技術であり、それが今日、技術革新によって具現化されたのだ。また、自律自動運転技術を普及させるために不可欠な通信技術は今やコネクティッド技術と呼ばれており、今回のD-Call Netもそのコネクティッド技術により成立している。

その恩恵はこれまでみてきた通り市販車のすべてが受けられるもので、必ずしも(未だ市販されていない)レベル3以上といった高度な自律自動運転技術は必要としない。その意味でD-Call Netのようなコネクティッド技術を活用した新しい枠組みは各方面への波及が見込めるし、現在9100万台以上を数える国内保有車両の多くが利便性を享受することができる。D-Call Netには、コネクティッド技術の最先端が表れていた。

西村 直人 交通コメンテーター

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にしむら なおと / Naoto Nishimura

1972年1月東京都生まれ。WRカーやF1、さらには2輪界のF1と言われるMotoGPマシンでのサーキット走行をこなしつつ、4&2輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行うほか、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。(財)全日本交通安全協会 東京二輪車安全運転推進委員会 指導員。(協)日本イラストレーション協会(JILLA)監事。★Facebook「交通コメンテーター西村直人の日々

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