──魅力を最大限に引き出すには、それなりの努力が必要では。
ディレクター業9年、その中で考えた。ディレクターは演出家だ。演出は面白さを作り出すことだ。それは、ないところから作り出すのではない。素人も持っている魅力はある。それをどうしたら引き出せるか。ネガティブなことを言って相手を怒らす。粘着質に付きまとってみる。中でも、「なぜ」の質問を5回する。そういうことが身に付いている。
相手がタレントならば、自分の見せ方がもともとうまいし、プレゼンテーションに長けている。そういう方は、こちらが掘り下げようとしなくても、どういう答えを期待しているのかを考えてくれる。しかし、ドキュメンタリーや素人番組では、どういうことなのか自分でもわかっていないし、深層心理まで自己分析したりもしない。そういう人には根気よく聞くのが大事だし、感情をあらわにしてもらうのも、本音を引き出す術として必要になる。
──番組関連のリサーチを緻密に行い、台本も詳細なものを作る?
緻密なリサーチや台本づくりは必須だ。またタレントと比較するなら、彼らは才能を持っている人たちであり、自由にやらせるほうが面白いものができる。輝くような才能、輝くようなものが何にもないような場所に行って、その魅力を引き出すときに、下調べなしで面白くできるはずはない。考えられるあらゆることを想定して、魅力を引き出しつつ、それを凌駕してくるハプニングを引き出す。それがディレクターの仕事だ。
──テクニックとして、たとえば「ズラし」がいるとか。
テレビ東京に入って思い知らされたのは、おカネがないことだ。テレビ局間の競争は極めて残酷で、とかく新企画は横一線で始まる。予算がない分、他局と同じことをやっていたら勝てないのは入社した瞬間から感じていた。見たことのない新しい面白さを発見するためにどうすべきか。ズラすのもその手法の一つだ。先輩たちもそういう意識で努力していた。それがDNAとなって刷り込まれている。
どこをどうズラすのか。歌番組なら、若者向けの番組は他局にあるから、ご高齢の方のために演歌番組をやろう、とか。自分の担当は情報・ドキュメンタリー番組だったから、「情熱大陸」のような有名人が出る番組ではなく、スポットライトを当てる先をズラしていく。読書でも有名作家を避ける傾向があった。
──この本に芥川賞作家の西村賢太さんの「西村語」が出てきます。
西村賢太の作品は心に刺さる。メジャーになったが、基本的にマイナーな日陰者のにおいがあり、文章が普通でないのがいい。
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