重病サインを見逃す医師の無知と患者の過信 もっと早く見つけていれば助かったケースも

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

慢性痛でも効果を感じるように思うのは、いわゆるプラセボ効果によることが多い。また、「平均への回帰」も効果があったように思う一因となっている。慢性の痛みのほとんどでは、痛みは強くなったり弱くなったりを繰り返す。

つまり、痛みが極めて強くなったら、そのまま何もしなくても自然に痛みは弱くなる。その一方で、痛みに対して薬を使うのは痛みが強くなった時なので、たとえ薬の効果がほとんどなくても、自然と痛みが弱くなるため、薬が効いたと思ってしまうのである。

さらに、この患者さんの場合には特に思い当たる理由がなく体重が急に減っている。中高年以上では、原因不明の急な体重減少は内臓などに癌などのなんらかの大きな異常があることを疑わせる「ヤバイ徴候」である。

自信過剰で「ヤバイ徴候」が見過ごされがち

ではなぜ「ヤバイ徴候」が見過ごされるのだろう。

見過ごされやすいのは、以前から慢性痛があった部分に新しい痛みがかぶってしまった場合である。痛みの性質が以前とは変わっている(この患者さんの場合、以前よりもはるかに痛みが強くなり、かつ腹部まで痛みが広がってきた)にもかかわらず、患者さん自身で「前からの痛みがひどくなっただけ」と理解してしまう。

特に、痛みの性質が変わる以前に大きな病院で精密検査を受けたことがあると、「どうせまた、何もないと言われるだけだ」と考えて、医療機関を受診することもない。

また、慢性痛についての医師への教育が日本はアメリカやヨーロッパなど先進国に比べて大きく遅れているため、ほとんどの医師は慢性痛について十分な知識や経験がない。そのため、痛みの性質の変化や、痛みによる睡眠障害、NSAIDsが効き過ぎること、などの重要な情報を患者さんに問診することもほとんどなく、見過ごしてしまいがちになる。

さらに、この患者さんのように自分の健康に過剰な自信を持っていて、定期的な健康診断などを受けていない場合は、さまざまな「ヤバイ徴候」が見過ごされがちになる。

そして、この患者さんの場合、ただでさえ症状が出にくくて発見が遅れがちになる膵臓がんの中でも、特にわかりにくい膵尾部癌であったことが不運だった。

北原 雅樹 ペインクリニック専門医、麻酔科医

著者をフォローすると、最新記事をメールでお知らせします。右上のボタンからフォローください。

きたはら まさき / Masaki Kitahara

横浜市立大学附属市民総合医療センター ペインクリニック診療教授。1987年東京大学医学部卒業。1991〜96年、世界で初めて設立された痛み治療センター、ワシントン州立ワシントン大学ペインセンターに留学。帝京大学溝口病院麻酔科講師、東京慈恵会医科大学ペインクリニック診療部長、麻酔科准教授を経て、2017年4月から横浜市立大学附属市民総合医療センター。2018年4月現職。専門は難治性慢性疼痛の治療。

この著者の記事一覧はこちら
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事