重病サインを見逃す医師の無知と患者の過信 もっと早く見つけていれば助かったケースも
長引く体の痛み(慢性痛)の特徴の1つとして、医療機関を受診したくなるような強い痛みを患者さんが感じているにもかかわらず、痛みの原因となるような異常が見つからず、なぜ痛いのかがよくわからない、ということがある。
慢性痛は直ちに命が危険になるような病気ではないのだが、毎年500人以上の患者さんを診ていると、すでに何らかの病気にかかってしまったことで、慢性痛とは別の原因で痛みが生じているケースに遭遇する。そのようなときには、もっと前に見つけられていれば……と忸怩(じくじ)たる想いにとらわれる。
痛みの原因がよくわからない
「やっと先生にお会いすることができました。この半年間は特に痛くて痛くて……。なかなか予約が取れなかったんですよね~」
部屋に入ってイスに腰掛けるなり、患者さんは期待感を弾んだ声にこめて話しだした。軽く日焼けしているような、やや褐色の肌をした60代前半の女性である。身長160センチはあるだろうが少し痩せ気味だ。言動は活発だが、どことなくやつれているように感じられた。長くお待たせしたことをお詫びした後、いつもどおり、「何がいちばんお困りですか」と質問を始めた。
「仕事の関係から、パソコンの前に座って作業していることが多く、ずっと前から背中の中ほどが凝って痛かったんです。それが、1年くらい前から段々痛みがひどくなって、半年くらい前からほぼ毎晩、寝ていても痛みで目が覚めるくらい痛みが強くなりました」
女性は、この日一緒に来ていた60代の旦那さんと2人で会社をずっと経営してきた。女性は税理士の資格を持っていて経理を担当しているため、パソコン仕事が多いという。もう数年したら仕事をたたんで悠々自適の生活に入ろうと考えている。
そうしたら身体も楽になると頑張ってきたが、あまりにも痛みがひどいので当科を紹介してもらったとのことである。今まで、大学病院を含む複数の医療機関を何回か受診したことがあるが、背中の痛みの原因はよくわからないといわれてきた。
「1年位前からのひどい痛みにはロキソプロフェンがよく効いて、飲んでから30分もすると痛みは半分以下になって楽になります。そこで、身体に悪いとはわかっていたのですが、ロキソプロフェンを1日6回も7回も飲んでしまって……。
そうしたら胃が痛くなって血を吐いてしまい、副作用で胃潰瘍になっていると診断されて内科の先生から叱られました。アセトアミノフェンに替えて胃潰瘍は治まったのですが、前ほどは効かなくて困っています」
無料会員登録はこちら
ログインはこちら