重病サインを見逃す医師の無知と患者の過信 もっと早く見つけていれば助かったケースも

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胸と腰とのちょうど間の背骨のあたりに鈍い痛みはつねに感じていて、ひどくなるとそこから身体の前のほう(上腹部)に広がって差し込むような痛みとなるという。食欲が落ちたわけでもないのに、この半年くらいで体重が3kgくらい減った。若いときから風邪さえもほとんどひいたこともないくらい健康であり、かつ個人事業で忙しいので、必要だとは知りつつも、がん検診を含む健康診断は過去数年間受診していない。

このような話を聞いているうちに、自分の気分が少しずつ沈んでいくのを感じていた。痛みの原因が「ある」ことを示す「ヤバイ徴候」が満載だったのである。ひと通り診察を終えた後、内臓に原因がある可能性が高いことを夫婦にお伝えして、すぐに消化器内科に院内紹介状を書いて受診してもらった。

数時間後に返ってきた返信は、私のいやな予測が当たっていたことを示していた。「膵臓がんの可能性が高いため、直ちに入院精査します」と書かれていた。

薬が効かないこともある

痛みに何か原因がありそうなヤバイ徴候としては、まず、強い痛みのために寝ていても目が覚めてしまう、ということがあげられる。ここで重要なのは、痛みが原因で目が覚めるということであり、目がさめたら痛みを感じた、のではない。

つまり、ほかの事(トイレだとか隣に寝ている旦那さんのイビキだとか)で目が覚めたら痛みも感じた、とか、以前から寝つきが悪かったり眠りが浅かったりしていたので寝ている間も痛みが気になってしまう、というのとは異なる。あくまでも、強い痛みがきっかけで目が覚めてしまう、ということである。

すなわち、痛みで眠りが妨げられるというのは慢性痛ではまずありえないことなのである。慢性痛患者さんほぼ全員が、たとえ睡眠薬などを使用してでも、一度寝てしまえば痛みは気にならない、と話す。一般的に使われている睡眠薬には鎮痛効果はない。

また、薬そのものの作用もそれほど強いわけではなく、縫い針一本を刺しただけでも目を覚ませる程度である。鎮痛薬、特に非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs、ロキソプロフェンやジクロフェナクなど)がよく効くのも「ヤバイ徴候」の1つだ。よく効く、というのは服用してから30分くらいしてから効果が出始めて、痛みが半分以下になるというような場合である。

医師でさえも誤解している人がいるのだが、NSAIDsは「抗炎症薬」であって、鎮痛薬ではない。怪我や病気で起こる炎症を抑えることで、炎症に伴う痛みが間接的に良くなるのである。つまり、炎症がなければ理論的にNSAIDsは効果がない。

そして慢性痛はほとんどの場合に炎症を伴わない(あってもごくわずか)ので、NSAIDsを飲んでも効果はあまり感じられない。

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