スポーツ少年が苦しむ「暴言指導」の過酷実態 小6ミニバス少女は退部へと追い込まれた

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ただし、異なる意見もある。茨城県つくば市のサッカークラブ「REGISTA TSUKUBA」で小学生を指導する市村佳男さんはこう話す。

「ボランティアだからこそ責任を持つべきだと思う。コーチ側は子どもたちを教えることで、自分の指導を磨くことができる。コーチと選手が互いに成長し合う関係だと考えれば、子どもを自分が勝つための駒のようには扱えないはず。ぜひユニセフの原則を学びたい」

ユニセフの提言は「抑止力」になるか

500名の会員が所属する一般社団法人あきる野総合スポーツクラブ(東京都あきる野市)の理事長を務め、サッカーコーチでもある高岸祐幸さんは「子どもの主体性や自主性を大事にした指導をしているが、もっと強く言ってやらせてという親御さんの意見もある。そんなときにユニセフもこう言ってるよと伝えれば、説得材料になる」と期待を寄せる。

原則を1年かけて練り込んだ日本ユニセフ協会広報・アドボカシー推進室主任の高橋愛子さんは「情報を集めていくうちに、一部の少年スポーツが子どもの権利を踏まえ運営、指導されていないことがわかりました。作業していくなかで、たまたまスポーツの不祥事が発覚し、私たちも日本のスポーツと子どもの現状を少なからず学ぶことができた」と振り返る。

そもそものきっかけは、東京2020オリンピック・パラリンピックの持続可能性に配慮した「調達コード」。建築物や食材、グッズ、清掃や通訳などさまざまな物品やサービスといった、同組織委員会が調達するものすべてに適用されるコード(規定)を指すが、その項目に「子どもの権利」も存在する。

そこで2019年ラグビーW杯、2020年の東京五輪と国際的な大規模スポーツイベントの開催を控える今がスポーツに対する関心が高まる機会とにらんで、スポーツに関する法律に詳しい十数人の弁護士や識者とともに調達コードではカバーされないスポーツに参加する子どものための原則を作ったという。

日本ユニセフ協会が作った日本初の原則は、どれだけ浸透するか(筆者撮影)

日本ユニセフによると今回の原則には、日本スポーツ協会、日本障がい者スポーツ協会やJOC(日本オリンピック委員会)、全国高等学校体育連盟、日本中学校体育連盟、日本経済団体連合会をはじめいくつかの企業が賛同しているという。なおユニセフがこの文書で指す「子ども」とは、あらゆる形でスポーツに参加する18歳未満の者。18歳以上であっても、支援が必要な場合はこの原則に準じた対応が求められる。

世界初のスポーツにおける子どもの権利を保障する10の原則。これを発露に、子どものスポーツ環境がどう変わるか。「古くて新しい問題」を解決する大人の姿を見守りたい。

島沢 優子 フリーライター

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しまざわ ゆうこ / Yuko Simazawa

日本文藝家協会会員。筑波大学卒業後、広告代理店勤務、英国留学を経て日刊スポーツ新聞社東京本社勤務。1998年よりフリー。主に週刊誌『AERA』やネットニュースで、スポーツや教育関係等をフィールドに執筆。

著書に『世界を獲るノート アスリートのインテリジェンス』(カンゼン)、『部活があぶない』(講談社現代新書)、『左手一本のシュート 夢あればこそ!脳出血、右半身麻痺からの復活』(小学館)など多数。

 

 

 

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