日本のお家芸「材料科学」が揺らいでいる理由 「マテリアルズ・インフォマティクス」の衝撃

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現代では、すでに新材料は、天然から見つけ出したり改良したりするのではなく、研究者が新たに合成して創り出すものになっている。とはいえ、行き当たりばったりにいろいろなものを混ぜたり試したりしても、そう簡単に新材料を開発できるわけではない。きちんとした理論的背景のもと、原子レベルで組み合わせを設計し、合成することによって、新たな機能を持たせた材料を創り出す必要がある。

つまり、研究者には理論的な頭脳に加えて、いわば職人的な勘と手先の器用さが求められるわけだが、そのような中で大きな存在感を発揮したのが日本人の研究者たちであった。光触媒、炭素繊維、カーボンナノチューブ、青色LED、鉄系超伝導体、ネオジム磁石、リチウムイオン電池などなど、日本人が開発、あるいは大きな貢献をした新材料は枚挙にいとまがない。

しかし、近年はこの「お家芸」とも言うべき日本の材料科学にも、だいぶかげりが見えてきている。理由の1つは、中国など新興国の台頭だ。新材料の開発は、最初から完成品の形で発表されることはほとんどない。たいていの場合、新しいコンセプトの材料がまず発表され、試行錯誤を繰り返しながら性能や製造法の改善が図られて、長い時間をかけて完成に至る。

となれば、いくらコンセプト段階で先行しても、製品化の段階では資金力とマンパワーのあるところが勝つ。資金と研究者を急速に拡充している中国には、日本勢はなかなか太刀打ちできなくなっている。ある研究者は「たとえこちらが人員を3倍にしても、向こうはその数倍の研究員を投入してくる。日本が勝つにはどうすればいいですかとよく聞かれるけど、どう考えたって無理ですよ」と嘆いている。

「マテリアル・インフォマティクス」の登場

もちろん、先ほども述べたように、ただ資金と人数にまかせてやみくもにじゅうたん爆撃をしていればいい材料が見つかるというものではなく、研究者の経験と勘がものを言う部分もある。しかし、日本が強みとしていたこの領域にも、新たな強敵が現れた。「マテリアルズ・インフォマティクス」と呼ばれる手法がそれだ。

2016年、グーグル傘下のディープマインド社が生み出した人工知能「アルファ碁」が、囲碁のトップ棋士を4勝1敗で撃破し、世界を驚かせたことは記憶に新しい。囲碁はほかのゲームに比べて勘や目分量に頼る部分が大きく、このためコンピュータが人類に勝てない最後のボードゲームとして残っていた。

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